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「ああ、私だ」
雪華はリンリンのメッセージを見ると、目をむいてこちらを見た。お前がやったのかと言うように俺の顔を指さしてくるので、違うと手を振ると、雪華はうなずいて立ち上がった。大賀見の息がかかった警察関係者に詳細を聞きに行くのだと分かった。
「ちょっと、電話をかけてくる」
「あ、はい」
「いってら……」
「うわ、蓮杖さん?」
雪華が引き戸を開くと同時に、ハルが勢いよく飛び込んで来た。
「倉橋友哉! 会いに来たぞ!」
「え?」
友哉がびっくりしたようにハルの方へ顔を向ける。
「今日も顔を見られて嬉しいぞ! 倉橋友哉!」
「蓮杖さん、病室では静かに」
「まだいたのかよ、ハル」
「まだいたのではなく、一度帰ってまた来たのだ。倉橋友哉が心配でな!」
「俺? え、誰?」
「倉橋友哉、昨夜よりだいぶ顔色がいいな。良かった、私は……」
言いかけ、ハルはぐわっと目を見開いた。つかつかと走り寄ってきていきなり腕をつかんでくるから、俺の体にびりっと痛みが走った。
「痛って!」
「どこに行っていた、久豆葉あきら」
「はぁ?」
ハルの細い手にはたいして腕力など無いはずなのに、つかまれた腕がビリビリ痺れて振りほどけない。
「何をしてきた、久豆葉あきら」
「コンビニ行っただけだよ、つか離せよ」
「違う、どこで人を殺してきた。ぷんぷんと死臭がしているぞ」
「はぁ? 誰も殺してないよ。だから離せよ!」
「蓮杖さん、あきらは何もしていない」
「大賀見雪彦、お前にも分かるだろう、この死の臭い」
ハルが俺の腕をひねり上げる。
「いたた! やめろって」
「あきら? どうした? 何かされたのか?」
友哉が驚いて、食器の乗った台をよけてこちらへ身を乗り出している。
「倉橋友哉、傷に響くからあまり動かない方が良いぞ」
「え? え?」
「昨日はきちんと挨拶できなかったが、自己紹介しよう。私は蓮杖ハルだ。蓮の杖で蓮杖、ハルはカタカナのハルだ」
「蓮杖? 昨日、の……?」
「そうだ、昨日公園で会った拝み屋だ。倉橋友哉が望むなら、いつでもあきらを祓ってやるぞ!」
「は? あの……」
「おい、勝手なこと言うな」
「うむ、どうだろうか、倉橋友哉。私とお友達から交際してくれないだろうか」
「は? あ、あの、なにを?」
「ハル、タイミング」
「ん?」
「告白より先に俺の手を離せって」
「おう、すまない。気が逸ってな。どうだろう、倉橋友哉。私は自分で言うのもなんだが、かなり美人だぞ」
「あの、美人って、えっと?」
「だから口説くより先に俺をつかんでいるこの手を離せってば」
「いや、死臭を漂わせている理由を言うまでは離せない」
「お前の手、地味に痛いんだよ!」
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