6-(5) 食べられた16人

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「あきら、大丈夫か? 拝み屋さんに何かされているのか?」  友哉が布団をめくって、こちらへ来ようとする。 「倉橋友哉は安静にしていなさい」 「そうだよ友哉、大丈夫だから」 「でも」 「ほら久豆葉あきら、さっさと納得のいく理由を述べよ」  堂々巡りしている俺達を、雪華が呆気にとられた顔で見ている。  その時、どよどよっと遠くからざわめきが聞こえて来た。何人かの人が大声を出しながら近づいて来るようだ。 「ゆきひこぉー!」  悲鳴のような男の声に、雪華がピクリと眉を動かす。大賀見雪彦というのが雪華の戸籍上の名前だ。 「雪彦! 雪彦―! 助けてくれぇ!」 「だめです! 先に治療を!」 「出血がひどい、動かないで!」  騒ぎに気を取られているハルの手をべりっとはがして、俺は友哉のそばへ走った。肩を触ると、友哉はその手をぎゅっとつかんできた。 「何の騒ぎだ?」 「分かんない。でも雪彦って、雪彦おじさんのことだよね?」 「様子を見てくる」  雪華が走って廊下へ飛び出して行く。  ハルは友哉のいる病室と騒ぎの起こっている廊下を交互に見て、好奇心が抑えきれなかったのか、廊下の方へ走って行く。入り口の引き戸がガ―ッと自動的に閉まった。 「琥珀、翆玉」  俺は大雅のほかに二匹を呼び出して周囲を警戒させる。 「雪彦ぉ!」 「典孝おじさん?! なんでこの病院に?」 「ああ雪彦、助けてくれぇ!」 「いったい何があったんですか、ひどい怪我だ」  扉の向こうから雪華の驚いた声が聞こえてくる。 「典孝……?」  大賀見典孝は先代当主の末の弟で、ちょっと前に俺が狼をはがした相手だ。以前は御前(みさき)市の市議会議員だったが、10年前に病気を理由に辞職して以来、三乃峰にいる娘夫婦のところに身を寄せている。おそらく御前(みさき)市に道切りの結界をはった時に、その外側へ逃げたのだろう。  娘もその婿も一応大賀見の血を引いているが、まだ式狼を持っていなかったので俺は会ったことが無かった。  俺がこれまでに手に入れた狼は全部で18匹。狼を2匹持っていたのはたった二人だけだったから、俺は誠司を含めて16人から狼をはがしてきた。あと残っているのは当主の大賀見道孝が持っている3匹だけだ。 「助けてくれ、助けて……」  典孝は哀れな声を出して、雪華にすがっている。スケープゴートとして雪華を俺に差し出したくせに、いまさらどの面下げて助けを求めて来たんだか。 「いったい何があったんですか」 「お、お狐様に」 「お狐様?」 「お狐様にみんな……みんな殺された、みんな食べられてしまったんだぁ……!」
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