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「あきら、大丈夫か? 拝み屋さんに何かされているのか?」
友哉が布団をめくって、こちらへ来ようとする。
「倉橋友哉は安静にしていなさい」
「そうだよ友哉、大丈夫だから」
「でも」
「ほら久豆葉あきら、さっさと納得のいく理由を述べよ」
堂々巡りしている俺達を、雪華が呆気にとられた顔で見ている。
その時、どよどよっと遠くからざわめきが聞こえて来た。何人かの人が大声を出しながら近づいて来るようだ。
「ゆきひこぉー!」
悲鳴のような男の声に、雪華がピクリと眉を動かす。大賀見雪彦というのが雪華の戸籍上の名前だ。
「雪彦! 雪彦―! 助けてくれぇ!」
「だめです! 先に治療を!」
「出血がひどい、動かないで!」
騒ぎに気を取られているハルの手をべりっとはがして、俺は友哉のそばへ走った。肩を触ると、友哉はその手をぎゅっとつかんできた。
「何の騒ぎだ?」
「分かんない。でも雪彦って、雪彦おじさんのことだよね?」
「様子を見てくる」
雪華が走って廊下へ飛び出して行く。
ハルは友哉のいる病室と騒ぎの起こっている廊下を交互に見て、好奇心が抑えきれなかったのか、廊下の方へ走って行く。入り口の引き戸がガ―ッと自動的に閉まった。
「琥珀、翆玉」
俺は大雅のほかに二匹を呼び出して周囲を警戒させる。
「雪彦ぉ!」
「典孝おじさん?! なんでこの病院に?」
「ああ雪彦、助けてくれぇ!」
「いったい何があったんですか、ひどい怪我だ」
扉の向こうから雪華の驚いた声が聞こえてくる。
「典孝……?」
大賀見典孝は先代当主の末の弟で、ちょっと前に俺が狼をはがした相手だ。以前は御前市の市議会議員だったが、10年前に病気を理由に辞職して以来、三乃峰にいる娘夫婦のところに身を寄せている。おそらく御前市に道切りの結界をはった時に、その外側へ逃げたのだろう。
娘もその婿も一応大賀見の血を引いているが、まだ式狼を持っていなかったので俺は会ったことが無かった。
俺がこれまでに手に入れた狼は全部で18匹。狼を2匹持っていたのはたった二人だけだったから、俺は誠司を含めて16人から狼をはがしてきた。あと残っているのは当主の大賀見道孝が持っている3匹だけだ。
「助けてくれ、助けて……」
典孝は哀れな声を出して、雪華にすがっている。スケープゴートとして雪華を俺に差し出したくせに、いまさらどの面下げて助けを求めて来たんだか。
「いったい何があったんですか」
「お、お狐様に」
「お狐様?」
「お狐様にみんな……みんな殺された、みんな食べられてしまったんだぁ……!」
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