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「食べられた?」
「そうだ! 見ろこの手を! 俺はこの目ではっきりと見た。この耳で聞いた。『取られたものを返してもらう』と、あの化け物が……! 狐だ、狐の女が生んだ穢れた子供だ! あの子はやはり大いなる災いだったのだ! 生まれてすぐに殺すべきだったんだぁ!」
「あきらが何をしたって言うんですか」
むっとしたような、怒りを含んだ声で雪華が聞いている。
「狐の子が大賀見を滅ぼす。予言は実現されてしまったんだ。あああ、なんてことだ、大賀見はもう終わりだ。もうおしまいだ。どうか、どうかもうこれ以上は! あああー!」
狂ったような悲鳴を上げて、男の声がまだ続く。
「雪彦ぉ! お前は大賀見の誇りを捨てて狐のガキに媚びへつらっているのだろう」
「当主とあなた達が命じたことでしょう。生贄になれと言ったのは誰ですか」
「うまいことやって、お狐様に気に入られたのだろう? だからお前だけはそうやってのうのうと無傷でいられるのだろう?」
「いったい何のことですか」
「お前から頼んでくれ! もうこれ以上奪わないでくれと! お前から言ってくれ! もうこれ以上殺さないでくれと! ああ……! せめて、せめて娘と孫は助けてくれぇ……」
その後はもう意味が読み取れない叫び声になって、医師や看護師らしき人達が落ち着くようにと呼びかける声とともに、5、6人の足音がバタバタと遠ざかっていった。
静かになった病室で、友哉が俺の方へ顔を向けてくる。
「人が……死んだのか?」
「俺は誰も殺していないよ!」
間髪入れずに否定すると、友哉は驚いたような顔をした。
「分かっている。そんなこと疑っていないよ」
「でも、あの人は俺が犯人だと決めつけていた」
「俺はあきらがやったなんて思っていない。でも、大賀見家の誰かが死んだってことだよな」
「うん、そうみたいだけど……」
大賀見英司が死んだことを言っていたのか? でも、典孝は死んだのは一人や二人では無いかのような口ぶりだった。
廊下からタタタッと軽い足音が近づいてきた。
がらりと引き戸を開けて、
「おい、テレビをつけろ。すごいことになっているぞ」
と、ハルは病室に入るなり自分でリモコンを取ってテレビをつけた。
映し出されたのは三乃峰警察署の前だ。レポーターらしき男がマイクを持って立っている。
『……いずれも大型犬のような動物に襲わせるという手口が同じことから、警察では同一犯の犯行の可能性も高いとみて捜査を進めています』
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