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優しい友哉に死体の話なんてしたくなかったのにと、俺はぎろりとハルを睨みつけた。
ハルは対抗するようにさっと指を立て、ぶつぶつと小声で何かを唱えだす。
「天・地・玄・妙・行・神……」
「え、ハルさん? またあきらに何かするつもりですか」
友哉が俺を庇うように前へ出ようとするから、ハルはびっくりして唱えるのをやめた。
「倉橋友哉、なぜそいつを庇う」
「あきらは人を殺したりしない。あきらのことは俺が一番よく分かっています」
「私はそうは思わないが」
友哉はハルを無視するように俺の方を向いた。
「あきら、死体を見たなんて、いったいどこで? 危ないことは無かったのか? どうして俺に黙っていたんだ?」
「ごめんなさい……。俺、怖くて……言葉にするのもすごく怖くて……」
子供のように泣きそうな声を出すと、友哉はハッとしたように俺の手を強く握ってきた。
「そうだよな、怖かったよな」
「黙っていてごめんなさい」
「俺は心配なだけだ。あきらは怖がりなのに死体を見ちゃったなんて……大丈夫か?」
「うん……うん、すごく怖かった……」
友哉の前では幽霊を怖がって見せたり、悪夢で眠れないと甘えてみたりしてきたから、友哉は俺を相当な怖がりだと思っている。俺がわざと指先をカタカタと震わせると、友哉は慰めるように優しく撫でてくれた。
ハルが羨ましそうな目で友哉の手を見ている。
「怖いだろうけど教えて欲しい。何があったのか、話せるか」
「うん……。俺ね、今朝、大賀見英司という人の家に行ったんだ。昨日の公園での襲撃を依頼したのがその人だと分かって、もうこんなことはやめて欲しいからちゃんと話し合おうと思って……」
ハルは『嘘ばかりつくな』とでも言いたそうにシラケた目を向けてくる。
まぁ確かに話し合いなんてする気はさらさらなかった。俺は英司を脅しに行ったんだ。
俺が『余計なこと言うなよ』と瞳で語ると、『嘘つきのケダモノめ』とハルが瞳で返事をしてくる。パチパチと火花が散りそうな俺達の間で、目の見えない友哉は俺のシャツをぐいっとつかんできた。
「あきら、そんな奴の家にひとりで行ったのか? どうして俺や雪彦さんと一緒に行かなかったんだ」
「ごめん……。全部、俺が狐のあやかしの血を引いているせいだと思って……」
「あきらは何も悪くないだろ。あやかしの血を引いているからっていうだけで、襲う方がおかしいんだ。どうしてそんな危ない奴の所に一人で行ったんだ」
「うん、ごめんなさい。心配すると思って」
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