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「心配するに決まっているだろ。俺の目がこんな状態になって、ぜんぜん頼りないのは分かるけど、でも」
「違うよ、頼りないなんて思っていない」
「思っているから何も言ってくれないんだろ」
「違うよ! ひとりで行ってすごく後悔した。死んでいる人を見ちゃって、怖くて怖くて、早く友哉の所に戻りたかった。本当だよ……!」
ほんとは死体なんて怖くもなんともなかったけれど、怖がるふりをして友哉の体に抱きつく。
「友哉ぁ……」
俺が恐れているのは、友哉に嫌われることだ。
じんわりと涙が出て来て、俺は少しすすり上げるように息を吸った。
「あきら……」
「ごめん、もうひとりで危ないところへ行かないから、怒らないで」
「……怒ってるわけじゃないよ」
「俺を嫌わないで」
「バカ、嫌うはずないだろ」
「うん……」
友哉は、はぁっと息を吐いた。
「とにかく、あきらが無事でよかった」
耳元でそう言って、優しく抱きしめてくれた。
臍の緒の封印が解けてから、俺は妖狐の力も使えるようになったし、身体能力も格段に上がった。18匹も式狼を持っているし、大妖狐にもなれるような化け物だ。
それでも、友哉は俺を心配する。心の底から案じてくれる。
まっすぐ向けられる情愛が俺を優しく包んでくれて、あったかくてくすぐったくて、いつも少し泣きたくなる。
「友哉お兄ちゃん、ごめんね」
自分より小さな飼い主にじゃれつく大型犬のように友哉にのしかかる。
「わ、重いって!」
友哉が笑ってぽんぽんと俺の背中を叩いた。
ハルが氷のように冷めた顔で、そんな俺達を見ている。
「それで? 早く続きを話せ、久豆葉あきら」
「う、うん、えっとね、その人の家へ行ったらなぜか鍵が開いていて……俺、つい中に入っちゃったんだ。そしたらリビングに死体が転がってた。お腹がちぎれてて、いっぱい血が出てて、すごく怖かった……」
ぶるぶるっと全身を震わせると友哉が優しく背中を撫でてくれて、ハルの目がさらに冷たくなる。
「俺、心臓が止まるかと思ったよ」
「……怖かったな」
「うん。こうしてると、安心する」
俺はハルに見せつけるように、友哉の髪に鼻や頬を擦り付けた。
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