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「はぁ、GPSか……」
勝手に追跡アプリを入れられていたらしいスマートフォンを、友哉は途惑ったようにポケットにしまう。
「ろくでもねぇな、ハルは」
「俺の何がいいのかな。あの人以外にはモテたことが無いんだけど」
それは、ハルには俺の力が効かないというだけの話なんだが、俺は「さぁ」と言って流した。
「とりあえず、どっかよさげなところで停めるから、すぐに結界張って」
「分かった」
あいつは日本各地に広く信仰されていた田の神と同じようなものなんだろう。冬は山に住み、春になると里に下りて来て田の神になり、秋に豊作をもたらした後、また山へ帰って行く。地域によっては他の土地神と結びつくこともあって、その姿や性質は千差万別だ。
鳥居がかなり小さなかったことからも、少女の姿はデフォルトなんだろう。その由来や対処方法はハルに解き明かしてもらうとして、俺は絶対に友哉と逃げ延びなくてはならない。
田んぼからも山からもできるだけ離れたいんだが、この田舎でいったいどこまで走ればいいのか。ふと、山川が言っていたことを思い出す。車で30分くらいのところに大規模なショッピングモールがあるとか。人が多い場所は適度に穢れているし、コンクリートに覆われているから、神を名乗るものを遠ざけるには都合が良いかもしれない。
カーナビの音声入力ボタンを押して「ショッピングモール」と言うと候補が三つ出て来たので、一番近いところに指で触れた。経路が表示される。
『目的地到着まで、あと23分です』
雨は嵐のようにどんどんひどくなっていく。風にあおられた雨が車体に当たってすごい音を立てている。
「まるで台風みたいだな。天気予報じゃ晴れって言っていたのに」
友哉の声が不安そうな色を帯びる。
俺はふとバックミラー越しに後ろを見て、愕然とした。この車が通り過ぎたはるか後方の道の上に虹が出ているのが見えたからだ。
周囲には不自然なくらいに車も人も通らない。この雨に降られているのは俺達だけなのか? あのアパートからずっと、雨が俺達を……友哉を追いかけてきているのか。
ガン、ゴン、と石礫でも降っているかのように、屋根に固いものが当たる音がした。
「なんだ?」
友哉がびくりとする。
フロントガラスに白い粒が当たってきた。
「え……雪?」
「雪?!」
俺の呟きに驚いて、友哉がこっちに顔を向ける。
「違う、雪じゃない、雹だ!」
「まじで?」
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