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雪華はテレビがついているのを見て、リモコンを取るとスイッチを消した。
「少し気味の悪い話だから友哉君にはあまり聞かせたくないんだが」
「え、俺? 俺は大丈夫です。あきらと比べたらぜんぜん怖がりじゃないですよ」
友哉は雪華のいる方へ微笑みを見せた後、俺の方に顔を寄せてきた。
「あきらは大丈夫か」
「うん、怖いけど……俺も聞くよ」
友哉は少し考えるように間を置いて、「手をつないでおくか?」と小声で言い、片手を差し出してきた。
俺は嬉しくなってわーっと抱きつきたかったけれど、ぐっと我慢してそっと友哉の手を握った。
「ありがと、友哉……」
「うん」
慈しむような友哉の表情と、ニッコニコに上機嫌な顔をしている俺。
雪華は一瞬ひくっと口を歪めたが、気を取り直したように話し始めた。
「さっき騒いでいたのは私の叔父である大賀見典孝だ。左の肘の10センチくらい下から先を失っていて、本人は狐のあやかしに食べられたと言っている。『取られたものを返してもらう』と狐が言ったそうだ」
「取られたもの……?」
「その狐は、以前に大賀見典孝に左手を取られたということか?」
「それがよく分からないのだ」
「ふうむ」
ハルが腕を組んで、首を傾げる。
「確か京では、剣で斬られた腕を取り返しに来た鬼の伝説があったな」
「いや、そういう話とは違うと思う。あやかしの左手など取ったことは無いと叔父は言っていた。それに、『返してもらう』と言いながら、実際は叔父の手に噛みついて食べているのも引っかかる」
「その狐は、自分の意思で動いているんでしょうか。それとも、叢雲や碧空のように術者の言う通りに動いているんでしょうか?」
友哉は雪華の方へ顔を向けて聞いた。
「その狐が言葉を発したのなら、自分の意思で動いているのだと思うが……」
「ん-、じゃぁ、あれかなぁ。さっきのおじさん、典孝さんだっけ? おじさんに仲間の左手を食べられたから、お返しにおじさんの手を食べた、とか」
「え……人間が誰かの手を食べたっていうのか?」
友哉の顔がさっと蒼ざめる。
雪華とハルが呆れたように口を開けて俺を見た。怖がりの演技はどうしたと言いたい顔だ。
でも、友哉は俺を信じ切っているから、これくらいで疑念を抱くことはない。
互いが互いの命綱みたいに、手を握り合って寄り添うだけだ。
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