6-(7) 食べられた18箇所

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 雪華はテレビがついているのを見て、リモコンを取るとスイッチを消した。 「少し気味の悪い話だから友哉君にはあまり聞かせたくないんだが」 「え、俺? 俺は大丈夫です。あきらと比べたらぜんぜん怖がりじゃないですよ」  友哉は雪華のいる方へ微笑みを見せた後、俺の方に顔を寄せてきた。 「あきらは大丈夫か」 「うん、怖いけど……俺も聞くよ」  友哉は少し考えるように間を置いて、「手をつないでおくか?」と小声で言い、片手を差し出してきた。  俺は嬉しくなってわーっと抱きつきたかったけれど、ぐっと我慢してそっと友哉の手を握った。 「ありがと、友哉……」 「うん」  慈しむような友哉の表情と、ニッコニコに上機嫌な顔をしている俺。  雪華は一瞬ひくっと口を歪めたが、気を取り直したように話し始めた。 「さっき騒いでいたのは私の叔父である大賀見典孝だ。左の肘の10センチくらい下から先を失っていて、本人は狐のあやかしに食べられたと言っている。『取られたものを返してもらう』と狐が言ったそうだ」 「取られたもの……?」 「その狐は、以前に大賀見典孝に左手を取られたということか?」 「それがよく分からないのだ」 「ふうむ」  ハルが腕を組んで、首を傾げる。 「確か京では、剣で斬られた腕を取り返しに来た鬼の伝説があったな」 「いや、そういう話とは違うと思う。あやかしの左手など取ったことは無いと叔父は言っていた。それに、『返してもらう』と言いながら、実際は叔父の手に噛みついて食べているのも引っかかる」 「その狐は、自分の意思で動いているんでしょうか。それとも、叢雲や碧空のように術者の言う通りに動いているんでしょうか?」  友哉は雪華の方へ顔を向けて聞いた。 「その狐が言葉を発したのなら、自分の意思で動いているのだと思うが……」 「ん-、じゃぁ、あれかなぁ。さっきのおじさん、典孝さんだっけ? おじさんに仲間の左手を食べられたから、お返しにおじさんの手を食べた、とか」 「え……人間が誰かの手を食べたっていうのか?」  友哉の顔がさっと蒼ざめる。  雪華とハルが呆れたように口を開けて俺を見た。怖がりの演技はどうしたと言いたい顔だ。  でも、友哉は俺を信じ切っているから、これくらいで疑念を抱くことはない。  互いが互いの命綱みたいに、手を握り合って寄り添うだけだ。
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