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「典孝叔父自身が、何かの左手を食べたのではなく、式狼にあやかしの左手を食べさせたというなら有り得るかもしれないな」
雪華の視線が、周囲を警戒して歩く大雅に注がれる。
「狼に食べさせた……」
俺達にとって式狼があやかしを食べるのはいつものことだけど、友哉にとってはそれも怖い話みたいで顔色は悪いままだ。
「ふむ。では大賀見英司の腹と尻が無くなっていたのも……」
「ああ、英司の式狼が腹と尻を食べたから、仕返しとして同じところを食べられたということかもしれない」
雪華はベッド横のキャビネットからメモ用紙とペンを取ると、テーブルと椅子を引きずって来て座り、いたずら書きのように人間の形を大きく描いた。
「典孝叔父が左手の肘下」
そう言って、大きく書いた人間の左手の肘の下当たりを斜め線で塗りつぶし、矢印を引いて『典孝』と書く。
そして、スマートフォンを左手で操作し、何かのリストを画面に出した。
「英司が左の腹部と臀部、圭吾が頭の上部、俊介が頭の下部と首、奈津美が右胸部、康太が……」
リストを読み上げながら、右手で人の形の中を斜め線で塗りつぶし、名前を記入していく。
「死体の欠損部分の詳細はテレビでも言っていなかった。その情報はどこから?」
ハルの質問に、雪華は顔を上げずに答える。
「大賀見家は警察にも知り合いが多くてな」
「ほう、なるほど」
昨夜襲われた15人の名前とその体から失われた部分を雪華がすべて読み上げた時には、メモ用紙に書かれた人の形はほぼ塗りつぶされていた。
「狼を2匹持っていた英司と信二は食べられた部分が他の者より大きい」
「そうすると、式狼に食べられた仕返しに式狼の主である術者を食べたという説が真実味を帯びてくるな」
「ああ。あと塗り潰されずに残っているのは……左大腿部」
「大賀見誠司か」
「だろうな」
誠司だけは転落死なのだが、霊安室に置かれた遺体から太ももが取られていた。
雪華が左太ももを斜め線で塗り潰すとメモ用紙の人型はすべて埋まり、一同、何となくゴクリとつばを飲む。
「全部合わせると、人ひとり分になるんですね」
友哉も頭の中で同じものを描いていたのか、乾いた声でそう言った。
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