31人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
「昨晩襲われた15人と少し前に死んだ誠司は、過去に誰かを、もしくは何かを式狼に食べさせた。その復讐として、狐のあやかしらしきものが現れ、過去に食べられた何かと同じ部分を食べたということか」
雪華が推測を整理して言葉にする。
「では、その狐のあやかしは、過去に大事な誰かが食べられている間、一部始終をその目で見ていたということだろうか? どの狼がどの部分を食べ、どの狼がどの術者のものか、それをきちんと知っていないと出来ない復讐だろう?」
ハルの指摘に寒気がしたのか、友哉がぶるっと震える。俺は怖がるふりをして友哉にぴたっとくっつき、つないでいる手を強く握った。
「大賀見雪彦は心当たりがあるか?」
「そうだな……。例えば裏切り者への制裁など、当主の命令があれば狼持ち全員で一人を襲うことはあるのだが……」
何かを考えるように、雪華はメモ用紙に目を落とした。
「この図だと、一族の狼持ち16人が、18匹の狼に命じて誰か一人分の体を食べさせたことになる。私の式狼と当主の式狼がここに含まれていない理由がよく分から……」
雪華は不意に言葉を止めた。
「そうだ。十年以上前のことなら有り得るな」
「十年以上?」
「ああ、私は十年前にむりやり呼び戻されるまで、8年間ほど三乃峰から離れていた時期がある。若い頃の私は大賀見に支配されているこの土地が嫌で、大学進学を理由にして北海道へ逃げたんだ。卒業しても3、4年は向こうに留まっていたな」
「北海道でやりたいことでもあったの?」
「いや、特には。当時つきあっていた女が喫茶店をやっていたから、そこを手伝いつつヒモみたいに暮らしていた」
雪華はふっと苦笑した。
「北海道の大学へ行ったのも、できるだけここから離れたいという理由で安易に選んだだけだった。西や南の方へ行くと犬神持ちに会いそうで嫌だったしな」
「ああ、あちらの犬蟲系の犬神か。私も非常に苦手だ」
「けんこけい?」
俺が首を傾げると、雪華が慌てて友哉を指してからぶんぶんと手を振った。友哉には聞かせたくない類いの話らしいと察して、俺はすぐに話題を変えた。
「雪彦おじさんが十年前にむりやり呼び戻されたのって、もしかして俺に関係している?」
俺の母親が失踪したのも、早苗が保護者になって御前市に二人で引っ越してきたのも、『あれ』に襲われるようになったのも、ちょうど十年くらい前の頃だ。
最初のコメントを投稿しよう!