31人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
「ああ……そうだ。むりやり呼び戻されて、狐の子を殺すようにと命じられた……」
気まずそうに雪華が言葉を濁すと、友哉が沈んだ顔をする。
「当主の奥様はあきらの母親が狐だということも知っていたんですね」
「あ、ああ、そうだろうな、おそらく」
雪華が歯切れ悪く返事をする。
奥様って誰だっけ?と、ちらりと雪華と目を合わせる。
雪華が慌てたように身振り手振りするので思い出した。そういえば色々とごまかすために、俺を殺そうとしたのは大賀見家の奥様ということにしたんだった。実際の当主の妻は虚弱な息子につきっきりで、ほとんど本家の屋敷から出ないらしいけど。
俺が狼憑きの家の当主と狐のあやかしの間にできた半妖だということを、友哉に知られたくなくて嘘を重ねてきた。結局、俺が半妖であることを知られてしまった今は、嘘をついていたということ自体を隠さなくてはならなくなっている。
雪華と俺が目配せするのをハルが怪訝そうに見て何か言おうとしたが、友哉がハルの方へ顔を向けたので口を閉じた。
「ハルさんも、ハルさんを雇った人もそうですよね。あきらは何もしないのに、どうして妖狐の血を引いているというだけで危険視するんですか」
ハルは困ったような顔をした。
久豆葉あきらは何もしない、わけではないから。
俺は友哉が倒れた日に数百人の人間を巻き込んで重傷者まで出す騒ぎを起こした。誠司の死は自業自得だが、狼をはがして殺されるきっかけを作ったのは俺だ。人を殺したいという欲求は無いけれど、友哉以外の誰が死んでも俺は何とも思わない。
ハルがこの機を逃さず俺の本性についてぎゃんぎゃん喚き出すかと思ったが、予想に反して冷静に話を戻した。
「話が脱線しているぞ、倉橋友哉。考えなければならないのは、今、何が起こっているのかということだ。大賀見雪彦が十年前にこちらに呼び戻される前に何かがあって、大賀見雪彦以外の全員で誰かを殺したということだな」
「ああ、18年前から10年前までの間のことなら私が参加していないことの説明がつく。当主の狼が加わっていない理由は分からないが」
「その頃に、いったい誰が殺されたのか……」
「狐のあやかしが復讐してまわっているのだから、殺された者も『狐』だったというのが自然だが」
十年以上前に殺された狐のあやかし?
俺の頭に、友哉にもらったドラゴンハンターの缶が思い浮かんだ。あの中には、俺の臍の緒が入っている。俺と母親をつなぐ臍の緒が。
最初のコメントを投稿しよう!