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雪華が立ち上がった。
「もう一回典孝叔父に話を聞いてくる」
「当主の道孝には?」
ハルの当然の問いかけに、雪華がぎくりとする。
「どうした? 話も出来ない相手なのか」
「いや……」
「当主様って怖い人なんですか?」
友哉が不安そうに問う。
「……怖いわけでは」
「歯切れが悪いな。自分の一族の当主だろう?」
「私は、その」
雪華は一族からはずされて、俺に貢物として差し出された。雪華と一族の縁は切れている。
友哉にはそういうことを何も教えていないから、『雪彦さん』は大賀見家において俺の後見人的な人という認識だろう。雪華自身も、今まで通りにあきらの親切なおじさんというポジションでいたいはずだ。
言い淀む雪華にハルがしびれを切らす。
「大賀見一族が大変なことになっているんだ。当主の方から連絡は来ないのか」
狼持ちだったやつらが一晩で14人死んで、1人は重傷だ。
こんな大事件が起こっているのに、当主が雪華や俺に何も言ってこないのは確かに少しおかしい。典孝のように俺に疑いを持つか、雪華に助けを求めるのが普通だ。
もしかしたら道孝もとっくに死んでいるかもな。
ちらりとそんなことが頭をかすめたけれど、顔色の悪い友哉の前でそんなことは言えなかった。
「連絡はない。典孝叔父の話を聞いたら、こちらからすぐ本家に連絡してみる」
「私も兄に頼んで情報収集してみよう。拝み屋の方のネットワークから見えてくるものもあるかも知れない。それから、倉橋友哉」
「え」
急に名前を呼ばれて友哉がハルの方へ顔を向ける。
「倉橋友哉、君の体はまだまだ回復していない。不安だろうが、何よりもまずは自分の体を優先してくれ」
「……は、はい」
素直にうなずく友哉を見て微笑み、ハルが近付いてその頭を撫でようとしたので、俺はパシッと手を払った。
「なに、どうした?」
「ううん、何でもない。蚊がいただけ」
音にびっくりした友哉に笑ってごまかす。
ハルは手をさすりながら苦々しく睨んでくる。
「久豆葉あきら……。お前は勝手なことをするなよ」
「勝手なことって何だよ」
「母親が死んでいるとなると、色々やりたいことがあるのではないか」
「別に。俺は友哉のそばにいれればそれでいい」
「そうか、それならば良い」
雪華とハルは心配そうに何度も友哉に声をかけてから、やっと病室を出て行った。
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