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ベッドの横の台にすっかり冷めた病院食が残っている。典孝の騒ぎの後始末で、病院のスタッフがまだ食器の回収に来られないらしい。おそらく入り口から廊下まで典孝の血でかなり汚れただろうし、大きい事件だから警察への対応もあるんだろう。
「友哉、朝御飯の途中だったんだよね。これは……うーん、バタバタして埃かぶっちゃってまずそうだし、作り直してもらう?」
友哉はゆっくり首を振った。
「食欲無いや」
「あ、そうだよね。ごめん」
さっきまで体を食べたとか食べられたとかいう話をしていて、食欲が湧くはずもない。
「友哉、隣座っていい?」
「いいよ」
朝食のためにベッドの背もたれは起き上がっている。友哉は広いベッドの左側へ体をずらした。俺は靴を脱いでベッドに上がり、友哉の隣にくっついて座った。
「すごい事件が起こってるみたいだけど、あんまり現実感ないね」
病室内とその周りをゆっくり警戒している琥珀と翠玉、大雅を眺める。
「あきら……大丈夫か」
「大丈夫じゃなさそうなのは友哉の方じゃん」
「俺は平気だ。でも、あきらのお母さんが」
「まだそうと決まったわけじゃないよ。俺のお母さんは狐のあやかしなんだから、殺されても死なないかも知れないじゃん。なんかすごい妖術とか使って、案外図太く生き延びているかもよ」
「すごい妖術ってなんだよ……」
「きっとねー、復活の呪文とかで蘇るんだよ」
「ドラゴンハンターの賢者みたいにかよ」
「そうそう、あの何でもできる賢者みたいに」
「はは、そうだといいな」
友哉は少し悲しそうに笑った。
「ね、友哉。あのおまじないしてくれる? 悪夢を見た時のやつ」
「ああ……もちろん」
「やった」
「じゃ、目を閉じて」
友哉は手探りで俺のおでこに触れて来た。温かい指の感触がくすぐったい。
「バクさん、バクさん、悪い夢を食べてください」
友哉は俺の眉間をトントントンと三度叩いた。
俺はくすくすと笑い声を出す。
「やっぱこれ、効き目あるー」
「そうか」
「友哉にもやってあげようか」
いつもの友哉なら『俺はいいよ』と恥ずかしがるはずだけど、今は素直にこくりとうなずいた。
「お願い……しようかな」
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