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ガコン、ガコン、と間断なく屋根に雹が当たってくる。空から降る氷の粒が少しずつ大きくなって、さらに数を増してきて、しまいにはガガガガとマシンガンの連射を思わせるくらいの、身がすくむような派手な音を響かせていく。
フロントガラスに雹がぶつかってきて白くなり、ワイパーを動かしても追いつかずに前が見えにくくなっていく。
ビシッと目の前に小さな皹が走った。
「嘘だろ!」
ビシッ、ビシッとさらにフロントガラスの皹が広がっていく。
「あきら?」
「つかまってて!」
視界が悪い。路面が滑る。このままでは逃げ切る前に事故にあう。
ハザードを点け、ブレーキをかけて速度を落とす。滑る路面を必死にハンドルを切って車体を左に寄せて停車させた。
途端に、攻撃的なほど降っていた雹がぴたりと止む。
『まもなく、目的地周辺です』
カーナビが言って、勝手に電源が切れた。
静かすぎて、空気が張りつめる。
「ショッピングモールに着いたのか」
「ううん……違うみたいだよ」
びっしりと窓に貼り付いていた氷の粒が夏の日差しを受けて、徐々に溶けていく。周囲が見えるようになってきて、最悪なことに気付いた。ほかの住宅も商業施設も見えず、道路の左右は青々とした田んぼが広がっている。
「うー、孫悟空の気分……」
逃げても逃げても、神様の手のひらの上にいる。
「友哉、車から出ないでね」
「ああ……。俺達があの部屋に入ったのが気に喰わなかったのかな」
「多分ね」
本当はそういうことじゃない。あの自称神様は、友哉を一目見て自分のものにしたくなったんだ。力を持っているものほど、友哉の価値にすぐに気が付く。
「でも、あの子達は悲しいすれ違いを起こしていて、とても放っては置けなかったし……」
「うん、そうだよね」
友哉が気にしている女子高生達のことなんか、あいつはもうどうでも良くなっているはずだ。友哉はあんなメスガキどもより、ずっとずっときれいな存在だ。あいつは友哉を見てしまった。きっともう、友哉のことしか考えられなくなっている。俺にはそれがよく分かる。
「神様系はそういう理不尽なやつが多いらしいよ。崇められて祀られて力を持ったあやかしが、近代化以降、ずっと放置されたせいでおかしくなっちゃうんだって。きちんと手順を踏んで昇華させてあげないと、悪霊化することも多いって」
「しょうかさせる?」
「神様の卒業式だってさ、ハルが言うには」
「お前とハルさんって、俺の知らない内に色んな話をしているんだな。なんだかんだいって仲良いよな」
「は? そんなわけ……」
その時、助手席側の窓がコンコンと鳴った。
「久豆葉あきら、倉橋友哉、もう大丈夫だ。迎えに来たぞ」
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