31人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
その女の人は髪がとても長くて、ものすごい美人だった。
「あのひと、びじんだね」
幼稚園の庭で遊んでいる時、俺が指差した方を見てれんくんはきょとんとした。
「あの人って?」
「あのながいかみのひと」
「え、どこ?」
「あそこ」
「え、誰もいないけど?」
俺はもう一回女の人を見た。女の人はにっこり笑って俺を手招きした。
お・い・で。
赤い唇がそう言うのを見た瞬間、俺はくらくらっと眩暈に襲われた。その後、どこをどう歩いたのかは覚えていない。俺はいつのまにか、木々に囲まれた小さな公園に来ていた。
キィ、キィ、と金属が軋む音がして見ると、赤いブランコにとても綺麗な子供が乗っていた。サラサラの茶色の髪が、揺れるたびにキラリと光る。
「こんにちは」
俺はブランコに走り寄って声をかけた。
「こんにちは」
綺麗な子が答えた。
「おれ、ともや」
「おれはあきら」
顔の綺麗なその子が自分のことを『俺』と言ったので、俺はちょっとびっくりした。
「えーっと、あきらはおとこなの?」
あきらはちょっと黙った。
「ともやは? おとこなの?」
冷たい目で聞き返されてすごくびっくりした。
俺は女の子に間違えられたことなんてそれまで一度も無かったから。
「ふんっ」
あきらは少し怒った顔でプイっと横を向いた。
俺は何かを失敗してしまったんだと思ったけど、あきらが何をどう怒っているのか分からなくてきょとんとしてしまった。
綺麗な子は怒っても綺麗なんだなと、見当違いなことを思いながら。
「なんだよー、じろじろみて」
「ご、ごめん。みたらダメ?」
「べつに、あそびたいならあそべば?」
あきらはそう言って隣のブランコを指した。
「うん! あそぶ!」
あきらはぐーんと大きくブランコを漕いだ。
俺も隣のブランコに座って、勢いをつけて大きく揺らしていった。
競い合うようにブランコを漕いでいると楽しくなってきて、笑い声が出た。つられるようにあきらも笑った。
「やるなー、ともや」
「あきらもなー」
「ともやー、ぶらんこでとべるー?」
「とべるよー」
「じゃあ、どっちがとおくまでとべるかきょーそー!」
「わかったー!」
「せーの、とりゃー!」
「とりゃー!」
ブランコの勢いのままに手を離して前へ飛び出す。ざぁっと風が耳を打ち、一瞬の浮遊感の後、ざすっと両足で降り立つ。
あきらより、俺の方が前にいる。
「やったー、おれのかち……」
「いたい!」
きちんと着地できたはずのあきらが、突然地面に転がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!