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「やっ、いたい! いたいよー!」
あきらの足に赤い血が出て来て、その体がずずっと10センチくらい後ろへずれた。
「やだー! いたい、はなしてー!」
また、ずず、ずず、と引っ張られるようにあきらの体が動く。
「あきら!」
俺は何も考えずに飛び出してあきらの体に抱きついた。
がぶりと何かが俺の腕を噛んでくる。
「うわっ!」
痛みで手を離すと、またあきらが引きずられる。
「ともやぁ……!」
「あきら!」
もう一度飛びつく。また噛まれる。それでも俺があきらを離さないと、今度は俺の体ごと何かが後ろへ引っ張って行く。
「だめー! だれかたすけてー! たすけてー!」
叫んでも、公園には誰もいない。
どうしよう、どうしよう。
怖くて、恐ろしくて、涙が出て来た。
「だ、だれかぁー、たすけてー……!」
―― この子を助けたいの?
急に女の人の声が聞こえて、俺はきょろきょろ首をまわした。
―― 助けるための力が欲しいの?
幼稚園で俺に手招きした女の人がすぐ目の前に立っていた。
「たすけて。ば、ばけものが」
女の人がふっと微笑んで、あきらを指差した。
―― この子を守りたい?
あきらはなぜか時間が止まったみたいに固まって宙を見ていた。
俺は女の人に必死で助けを求めた。
「おねがいです、たすけてください」
―― 助けて、じゃないでしょう。何でもかんでも大人を頼っちゃいけないわ。
「え……」
―― あなたがこの子を助けたいかどうか、守りたいかどうかを聞いているのよ。
「え、えと……たすけて……」
―― 助けるのは私じゃないわ。あなたが助けるか、助けないかなのよ。
俺の両目からぽろぽろと涙が零れてきた。こんなに怖いことが起きているのに、この大人はどうして助けてくれないんだろうと思っていた。
―― 守りたくないならいいわ。この子はきっと食べられちゃうけど。
「ダメ、あきらをたべちゃダメぇ」
―― じゃぁ守ると言いなさい。あなたが助けると言いなさい。
「ううー」
―― 泣いていても食べられるだけよ。
「た……たすける。おれがあきらをまもる」
俺は両手でぎゅっとあきらの体を抱きしめた。
―― そう、じゃぁこの子が大人になるまでの間、あなたにこの子を守らせてあげてもいいわ。その代わり……
女の人は俺に顔を近づけて来た。
―― あなたの『 』をちょうだい。
「え」
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