7-(1) 約束

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―― あなたの『   』をくれれば、この子を守る力をあげるわ。 「え、きこえない……」 ―― ほら、助けないとこの子はもうすぐ死んじゃうわよ。どうする? 助けたいの? 助けたくないの? 「た、たすけたい」 ―― ではあなたの『   』をもらうわね。  がんばって耳を澄ましても、女の人が何をもらうと言っているのか聞き取れない。 ―― 約束よ。あなたの『   』をもらうわね。 「あの……」 ―― あなたの『   』をもらうわね。  俺はどうしたらいいのか分からなくなって、とうとう女の人にうなずいてしまった。 「はい……」  女の人の唇がニーッと釣りあがった。 ―― あなたの名前は。 「……くらはしともや」 ―― くらはしともや。ともやくんか。  俺はその時、女の人の目があきらにそっくりな事に気付いた。  この女の人はあきらのお母さんだろうか。 ―― くらはしともや君。この子が大人になるまで、あなたはこの子を守ることが出来る。そしてこの子がきちんと大人になったら、私に『   』を捧げるのよ。  綺麗な人の綺麗な目が俺をじっと見つめてくる。 「はい……」 ―― 約束よ。 「やくそく」 ―― ふふふ、いい子。本当にいい子ね。くらはしともや君、私とあなたは約束をした。 「やくそくをした」 ―― この子がきちんと大人になったら、私があなたを迎えに来てあげる。約束よ。  すーっと空気に溶けるように女の人は消えた。 「いたー! いたいー!」  あきらがまた急に叫び出して、俺はハッとした。ずるずると後ろへ引きずられていくあきらの足の所で、ゆらゆらと何かが揺らいでいるのが見えた。  俺は分かった。このゆらゆらは悪いものだ。このゆらゆらしたものから、あきらを守らないと。  俺は手を振り上げて、思いっきりそのゆらゆらしているものに振り下ろす。 「この! この! あっちにいけ! あっちにいけ!」  バシバシと無我夢中で叩き続ける内に、いつのまにかゆらゆらしたものはいなくなっていた。 「はぁ……よかったぁ……」  一気に体から力が抜ける。  俺の腕からも、あきらの足からも、血が流れていた。 「ともやぁ、こわかったぁ」  あきらがひくっひくっとしゃくりあげながら俺を見る。  綺麗な子は泣きべそをかいても綺麗なんだな、と変なことに感心して俺はあきらに笑いかけた。 「こわいものはいなくなったよ」
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