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「……約束を果たすべく参りました。あきら様が凛々しい狐の……」
あきらが狐になったことは分かっている。俺の目では見ることは出来なかったけれど、その大きな口に生えた大きな牙にも触れた。
でも、どんな姿になったとしてもあきらはあきらだ。俺を噛んでしまったことをひどく後悔して、子供みたいにひたすら泣きじゃくっていた。
「あきらはまだ大人とは言えないだろ。あんなに不安定で幼いのに」
「……あきら様が凛々しい狐の姿を得られて立派に……」
「狐の姿になったら大人なのか? それがあやかしのルールってやつか?」
「……凛々しい狐の姿を得られて立派に大人となりましたので……」
「おい、いい加減に違うことを言えよ」
「……ましたので、約束を果たすべく、お迎えに参りました。あきら様が……」
俺が何を言っても二人は一言一句間違えずに同じセリフを繰り返す。
気味の悪さにゾクッとした。二人の様子はまるでゲームの登場人物みたいだ。何度話しかけても『ようこそ、はじまりの町へ』『近頃はモンスターが増えたなぁ』などと決まった言葉しか答えないあの無機質な感じによく似ている。
「お前ら、誰だ……?」
これは父さんと母さんじゃない。俺にはあきらの姿さえ見ることが出来ないのに、親だからと言って普通の人間である二人の姿が見えるはずがない。これは父さんと母さんの姿を借りた別の何かだ。
「あきら様が凛々しい狐の姿を得られて立派に大人となられましたので、約束を果たすべく、お迎えに参りました。あきら様が……」
「ああ……もういいです」
無限リピートを聞くことに疲れて来て、俺は諦めぎみに言ってみた。
「分かりました。行きます。でも分からないんです。果たすべき約束って何ですか?」
父さんと母さんの口元がニヤッと笑った。
「「はい、あなたの『 』をいただきに」」
声を揃えて言われ、くらりと眩暈がした。
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