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ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、と青白い炎がいくつも浮かび上がる。それは父さんもどきと母さんもどきの後ろ側に二列になって長く伸び、俺に行くべき道を示した。
「あきら様は大人になりました」
「くらはしともやは役目を終えました」
「約束を果たしに参りましょう」
「約束を果たしに参りましょう」
真っ暗な視界の中で、青白い炎が示す道はまっすぐに続いている。この病室は三階にあるはずなのに、道は平坦で登りも下りも無い。
俺はベッドから足を下ろして、そろりと動かした。靴もスリッパもみつからないので裸足で立つと、妙に柔らかくて床を踏んだ感じがしなかった。
まだ、夢を見ている途中だろうか。
青白い炎に近づくとひとつひとつが提灯になっていき、ずらりと道に連なる提灯のすべてをぼんやりとした人影が掲げているのが見えてきた。みんな同じような和風の衣装を着ているけれど、影になっていて顔がよく見えない。夢の中で出会う人みたいに、すべての人影はどこかで会った人のようでもあり、ぜんぜん知らない人のようでもあった。
提灯にはそれぞれ筆で描いたような文字が浮いていたけれど、どの字も読むことは出来なかった。まだ字を習っていない小さな子供か、もしくは日本語を知らない外国人が、適当に真似をして書いたようなでたらめな文字ばかりだったからだ。
俺は悟った。この道は、普通の道じゃない。きっと、行けばもう戻れない。
「あきら」
最後に別れを言いたかったが、ベッドに手を伸ばしてももうそこにあきらはいなかった。
俺はすとんと腑に落ちた気がした。
大人になったあきらには、もう守り手は必要ない。
この二人が言うように、俺は役目を終えたんだろう。
「さようなら」
俺は約束を果たすべく、青白く灯る提灯に導かれるままにゆっくりと歩き出した。
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