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「全員、出てきて」
小声で言うと、大雅たちのほかの狼もずらりと出てきて、18匹の狼が一斉に揃った。数が多すぎて病室には入りきらずに廊下と隣の部屋にも広がっているけれど、雪華とハル以外には見えないし何の問題も無い。
「友哉を探して」
短く命じると同時に、全頭が全方位に全力で散っていった。
ベッドに手をつく。当たり前だがさっきより温度が冷めていた。友哉がさらに遠くへ行ってしまった気がして、とくとくと鼓動が速くなってくる
「後は、どうする……どうしよう……何をすればいい? 警察を乗っ取って全署員に探させる? またネットを使って人海戦術で友哉を探させる?」
「落ち着け、あきら」
「うるさい!」
声がした方を睨むと、雪華もぐらりと眩暈がしたようによろめいた。
「あきら……力を抑えろ」
「うるさいうるさい、友哉がいないんだ、友哉が俺の友哉が……」
「この馬鹿者!」
バシリと後ろから頭を叩かれた。
いつの間にか、ハルが戻って来ていて俺を睨んでいた。
「よく考えろ。狼の見張りをかいくぐって、倉橋友哉をむりやり連れ去るなど人間には不可能だろうが」
「だから?」
「だから人間を何百人使っても探し出せない可能性がある。三乃峰病院での騒ぎを再現しても無駄だぞ」
「じゃぁ、じゃぁどうしたらいい?」
「狼にもお前にも、そして同じ敷地内にいた私や大賀見雪彦にも気付かれなかったのだから、むりやり連れ去ったわけではあるまい。おそらく倉橋友哉本人が自分でここを出ていくように仕向けた者がいるのだ」
「友哉は目が見えないんだよ! 自分で出て行くなんて」
「だが、見えるものもあるのだろう?」
「え……」
友哉の目に見えるもの……それは霊やあやかしだ。
「この世ならざるものが、倉橋友哉を導いて行ったのかもしれないぞ」
「でも、友哉は危険な魔物を見ることはできないし」
「それはあきらの憶測だろう。まだ友哉君に何が見えて何が見えないか、はっきりと解明できたわけじゃない」
「でも……」
雪華に言われ、急に息が浅くなってくる。
「でも、俺は隣にいたんだよ。あやかしが近付けば俺が気付いたはずだろ……!」
「では、連れ出したのは私のような拝み屋か術者かもしれないな」
「どうして? 術者がなんで友哉をさらうんだよ!」
「可能性を言っただけだ。ガキみたいに取り乱すな、久豆葉あきら」
「は……ガキって」
カッとして怒鳴ろうとしたけど、声がうまく出なかった。
おかしい。
なんだか視界がかすむ気がする。
「友哉がいないんだ。友哉が、俺の友哉が」
「あきら、まずは冷静になろう」
雪華が俺の肩を押さえてきて、驚いたように顔を覗き込んでくる。
「どうした、あきら。震えているのか」
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