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「え……俺……震えてる……?」
雪華が痛ましいものでも見るような顔をして、まるで温めるようにごしごしと俺の腕や背中をさすってきた。
「な、なにして……」
「すっかり忘れていたが、お前もまだ15歳の子供だったな」
「はぁ?」
喉の奥からひっくり返った声が出た。
雪華が俺の肩を抱き寄せる。
「あきら、大丈夫だ、大丈夫。ほら、深呼吸して」
「う、うるさい」
突き放そうとしたが体に力が入らない。
「大丈夫だ、あきら。私も蓮杖さんもいる。まずは落ち着いて、友哉君を連れて行ったものの痕跡をみつけるんだ」
「その通り。ここに魔物がいたのならその気配の残滓が必ず残っているはずだぞ」
ハルがベッドの上に指を滑らせ、耳を澄ませ、目を凝らしてゆっくりとその周りを歩き始めた。
「ハル……?」
「静かに」
集中する時の癖なのか、ハルは人差し指と中指を刀剣の形に立てて顔の前に持っていく。
「この部屋には狐の気配が充満しているな」
「そりゃ、俺がいるから」
「もちろん久豆葉あきらも獣臭いのだが、朝ここを出た時よりずっと臭気が濃くなっている」
「それって、どういう……?」
「久豆葉あきら以外の『狐』が、ついさっきまでここにいたということだ」
「待って。『狐』がいたなら、いくらなんでも俺が気付くはず」
「久豆葉あきらは寝ていただろう」
「ほんの数分ウトウトしただけだよ」
「数分あれば可能だろうな。なんせ相手は一晩で14人を殺せる狐だ」
「いや15人だ。典孝叔父もさっき死んだ」
「えっ」
俺は驚いたが、ハルは予想通りという顔でうなずいた。
「あやつがここへ来た時には、すでに体中が穢れに侵食されていたからな」
「ああ……。三乃峰の自宅で襲われた叔父は、すぐに近くの病院へ向かわずに、わざわざ私の居場所を探してここへ来ている。あきらを止めてくれと頼むために」
「娘や孫まで殺されると思って必死だったのであろうな」
「そんなの見当違いじゃん。俺は誰も殺していないのに」
「狼の気配の強いこの土地に、あきら以外にも妖狐が現れるとは誰も思っていなかったんだ」
「ここにいたのはホントにその狐なの? そうだとしたら、その狐は大賀見家に恨みがあるんだろ? なんで俺じゃなくて友哉を連れて行くんだよ?」
「大賀見典孝を追って来て、たまたま倉橋友哉を見かけたのではないか? 倉橋友哉は特異な存在だ。あやかしにとっては暗闇の中で光り輝いているかのように見えるだろうよ」
「友哉が誰よりもきれいなのは分かっているよ。けど、あやかしが友哉を連れて行って何をするんだよ」
「食べるのではないか?」
「は……?」
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