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「妖狐になった時に久豆葉あきらもそう言っていたではないか。頭からバリバリ食べると」
一瞬くらりと視界が暗くなって、気付くと雪華に支えられていた。
「あきら!? あきら……!」
「……食べる……?」
「大丈夫だ。そうと決まったわけじゃない!」
「友哉……友哉が……食べられる……?」
ハルが少し驚いたように瞬きをした。
「何だ、久豆葉あきら。妖狐の姿の時は威風堂々としていたのに、さっきから小さな子供のようにおろおろとしおって。思ったよりずっとメンタルが弱いのだな」
カーッと全身が熱くなった。
「う、うるさい! 友哉が死んだらお前も殺すぞ! 全部、全部殺してやる。友哉を殺した奴も、関係ない奴も、全部、目についたもの全部殺してやるからな!」
ハルがふいにかくんと膝をついた。
「蓮杖さん!」
雪華は俺から手を離して、倒れそうになるハルを抱きとめる。
「だめだ、あきら。力を抑えてくれ。叢雲、碧空、前へ」
雪華の式狼が出てきて、壁のようにハルと俺の間に立った。
「うう……不意打ちを食らったな」
ハルは頭痛を抑えるようにこめかみをこすり、二匹の狼の間からじろりと睨んできた。
「癇癪で力を使うな、ばかもの」
「だって……だって友哉を食べるとか、言うから」
ハルは大きく息を吐いた。
「執着に独占欲、それに依存か。ほんとにろくでもないな、久豆葉あきら。力と心のバランスが悪すぎて、幼児に拳銃を持たせているようなものだな」
辛辣な言葉が刺さってきて、とっさに言い返せない。
「力のぶつける相手を間違うな。私だって心から倉橋友哉の無事を願っているのだ」
ハルはよろよろと立ち上がり、また指を立てて集中し始めた。
俺は深呼吸して、必死に震えを抑えた。友哉がいないというだけで、俺の存在までなくなってしまいそうだ。焦燥、苛立ち、切迫……そして不安がどんどん大きくなっていく。
ハルが急にハッと息を吸い込み、何もない空間に両手をかざした。
「分かるか、二人とも。ここに妙な歪みがある」
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