7-(2) けもの道

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「でも、連れ出されたってことは友哉もここを通ったんだろ?」 「友哉君はあきらの眷属だからじゃないか」 「そっか、分かった、じゃ行ってくる」  俺はまたすぐ道へ入ろうとしたところで、ハルにぐいっと腕をつかまれた。 「痛って! なんだよ!」 「いきなり突っ込んでいくやつがあるか!」 「友哉が連れて行かれたんだ。俺もすぐ行かないとっ」 「待ちなさい!」  行こうとすると、ハルの手からビリビリと痺れが来る。 「いたた、おい手を離せよ」 「一瞬待て、10秒でいいから」  ハルはぷちっと自分の髪を一本抜いて、俺の手首に結び付けてきた。 「何これ、気持ち悪い」 「乙女の髪を気持ち悪いとか言うな」 「おとめって」 「私はれっきとした乙女だぞ」 「その乙女の髪をなんで俺に結ぶんだよ」 「これは目印だ。このケモノミチがどこへ通じているか分からないが、目印があれば我らも追っていける」  俺は自分の手首を見下ろした。髪の毛で結ばれたところに痛みは無いが、ハルの気配が濃厚で、なんだか飼い主からリードをつけられたみたいだ。 「うえ、嫌な感じする」 「嫌でも何でも、それははずすなよ。私達が追いつくまで決してひとりで戦うな」 「蓮杖さんの言う通りだ。約束を覚えているか? 私は二人とも助ける。どちらか一方ではなく、あきらと友哉君の二人とも助ける」 「私は倉橋友哉を優先するが」 「蓮杖さん」 「冗談だ。妖力だけ大きくても、久豆葉あきらの心は幼すぎる。相手は一晩で15人も殺せる化け物なのだ。お前などあっという間にひねり潰されるぞ」  ハルの言いたいことは分かったけど、友哉がどんな目にあっているかも知れないのに、大人しく待ってなんていたくない。  俺は返事をせずに、空間の歪みから道へと飛び込んだ。 「あきら!」 「久豆葉あきら!」  背中から、雪華とハルの声が追いかけてくる。 「お前は自分が思うよりずっと弱い! 絶対に無茶をするなよ!」  叫ぶ声を聞きながら、俺は狐火に照らされた常夜(とこよ)の道を走り出した。
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