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得意げに唇を釣り上げて、続きを聞いて欲しそうな顔に抗えず、俺は問いかけた。
「どうやったのか、しりたい」
「そうでしょう。教えてあげる。まぬけな大賀見家のやつらはね、この土地を奪うためにどれほどの狐を殺したのか、どれほど力のある妖狐を追い出したのか、長い年月とともにすっかり忘れてしまっていたのよ。どれほど狐に恨まれているのかということも、きれいさっぱり忘れ去って、まったく警戒もせずにのほほんと代を重ねていったわけ。許せる? 私は『巣』から引き離されて妖力が落ち、人の中にまぎれて、ただの人として屈辱的に暮らしていたというのに」
なぜそんなに悔しそうな顔をするのか、俺には分からなかった。俺は人の中にまぎれて、人として暮らしてこられてとても幸せだった。
「式狼に頼りきりで自ら研鑽しなくなっていった大賀見の連中は、代を重ねるごとに霊力が落ちていった。それでも、三乃峰付近は狼の臭いが染みつきすぎて私にはどうしても近寄れなかった。ただね、次期当主の道孝はしょっちゅう理由をつけては三乃峰を離れて旅行していたの。大賀見家を狙う敵がいるなんて考えもせず、大賀見の血が呪わしいだとかなんとか甘えたことを言っていたわ。そして一族に内緒で勝手に式狼を手放してしまった。ふふ、バカよねぇ、身を守る狼を失ったら狐の誘惑に対抗できないのに」
ふふふ、と友哉の唇から友哉じゃないそいつの楽し気な笑い声が漏れる。
「私は道孝を誘惑して何度も交わり、この身に大賀見の血を引く子供を宿すことに成功した。そう、もう分かるわね。それがあなたよ、あきらちゃん」
「俺……」
「大賀見の式狼は霊力に関係なく、大賀見の血を引いていれば受け継げるものなの。だから、あきらちゃんが成長したら狼を継承させて、一族をひとりひとりじわじわと殺していくつもりだったのよ」
俺はぎゅっと目を閉じた。母が父に恋をしていたなんて、何も知らない子供の幻想でしかなかった。母は父を愛していなかったし、息子である俺のことも愛してはいなかった。狼憑きの血を利用するためのただの道具として俺を生んだだけだった。
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