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「そうよ。だからこそ、あきらちゃんは大賀見家に復讐する気になって、狼をはがして回ったんでしょう?」
「大賀見家への復讐心を育てるために……? そのためだけに、お母さんが命じて息子の俺を襲わせたの? だって、俺、『あれ』に襲われて何度も何度も死ぬ思いを……」
言いかけ、違う事に気付いた。何度も死ぬ思いをしてきたのは、俺じゃなくて友哉だ。友哉は俺を庇って、俺よりひどい怪我をして、体中に噛み跡をつけられて、耳まで齧り取られて、そしてとうとう視力まで失った。
「何度も……死ぬような目に……」
「もしかして、式狼に襲わせたことを怒っているの? 嫌ねぇ、私が本気であきらちゃんを殺す気なんてあるわけがないでしょう」
「十年間だよ……。十年間ずっと、俺と友哉は怪我が絶えなくて、ずっと『あれ』に怯え続けて……」
「でもあきらちゃんは大丈夫だったでしょう? だって、十年前にこの子を人形としてつけてあげたんだから」
友哉に取り憑いたそいつが、両手で友哉の胸を押さえた。
「え」
「この子よ。くらはしともや君。あきらちゃんの人形」
「ひと……がた……?」
「人形って何か分からないかしら? ええと、身代わり人形って言えば分かりやすいのかしら」
「身代わり人形……友哉が、俺の、身代わり」
「そう、あきらちゃんの代りに災いを受けるものとして、私がこの子を人形にしたの」
ぐらぐらっと眩暈がして、俺はソファの端に手をついた。
友哉の声帯を使って、そいつは得意げに話を続けていく。
「あの時は取り憑いた道孝の体から短い時間しか離れられなかったから、ちょうどいい子を見つけるのに苦労したのよ。素直で、操りやすくて、霊力があって、健康な子供。この子は私があなたのために選んであげた、とっておきの身代わり人形だったの」
喉がカラカラに乾いてしまって、俺は必死にかすれた声を出した。
「何を、言っているの……。友哉は人形なんかじゃない。友哉は、本気で俺を愛してくれて、優しくしてくれて、心配してくれて、守ってくれたよ」
「ええ、そうでしょうよ。私がそう命じたんだから」
「命じた……」
だめだ、ぐらぐらする。
体が震えてくる。
「ただの人間が狼の攻撃を防げると思う? この子に力の使い方を教えたのは私よ。この子は素直にその通りにした。自分の魂を糧にして、それを霊力に変えて、毎回狼を追い払っていた。つまり自分の命をガリガリと削りながらあなたを守っていたわけ」
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