7-(4) 呪いを終わらせる

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「あきらちゃん、ねぇあきらちゃん、いつまで寝っ転がっているのよ? もういいでしょ。食べちゃったものは吐き出せないんだから。またいくらでも新しいオモチャを見つけてあげるわよ。やっぱり男の子がいいの? ねぇ、返事しなさいよ」  ぐらぐらと視界が回って、ふざけたことを言っているそいつの顔も見られない。  目の前にいるのに。  友哉を殺した奴が、いるのに。  俺の母親が、狐の魔物が、人の心を知らないケダモノが。  友哉を殺して、友哉を食べて、友哉の体を自分のものにした奴がそこにいるのに。  俺の中には憎しみも殺意も何も湧いてこない。  ただつらい、悲しい、苦しい、痛い。  こういうのを何て言うのか、知っている。 ―――――――― 絶望だ。 「友哉ぁ……」  会いたい……。友哉に会いたい。願うのはそれだけだ。  もしも友哉がいなくなったら、俺は凶暴なケダモノになるものだと思っていた。友哉を殺した犯人も、そうでないやつも、全部、全部、殺してまわって、俺が退治されるまできっと止まれないだろうと、そんな風に思っていた。  でも、違った。  何も出来ない。  息をするのも苦しくて、立ち上がることも出来なくて、声を出すこともつらくて、心臓が痛くて、ひどく痛くて。  友哉、友哉、友哉友哉友哉友哉友哉……。  友哉がいなくなっても、俺は世界を滅ぼしたりできないんだ。  友哉がいなくなったら、俺自身が滅びるだけだったんだ。  友哉がいなくなったらもう、俺は、俺として生きていけないんだ。  子供の頃からの友哉の思い出ばかりが、いくつもいくつも浮かんでくる。  コツン、グッ、パチン、友情の合図を何百回してきただろう。  一緒にバカな話をして、一緒にゲームをして、一緒に勉強して、ずっと一緒に生きて来た。  どんなに怖いことがあっても一緒にいれば平気だった。  人生を振り返れば友哉の笑った顔ばかりが浮かんできて、俺がどんなに幸せに生きて来たのかを思い出させる。  テーマパーク、行きたかった。友哉が行きたいところに、全部行きたかった。友哉がしたいことを、全部やらせてあげたかった。  いっぱい大好きだって言っておけばよかった。  でも、もう会えない。  友哉がいなくなっても、俺はまた笑えるのかな。  もう何もおかしくないし、何も楽しくないのに、笑う意味があるのかな。  一緒に笑ってくれる友哉がいないのに、笑う必要なんてあるのかな。  友哉がいなくなったら、遊ぶ意味があるかな、勉強する意味があるかな、バカな話をする意味があるのかな。  友哉がいない世界で、ご飯を食べる必要があるかな、眠る必要があるかな、息をする必要があるのかな。  きっともう、意味も必要もないよね。 「そっか……俺、死んじゃうんだ……」
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