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「あきらちゃん、ねぇあきらちゃん、いつまで寝っ転がっているのよ? もういいでしょ。食べちゃったものは吐き出せないんだから。またいくらでも新しいオモチャを見つけてあげるわよ。やっぱり男の子がいいの? ねぇ、返事しなさいよ」
ぐらぐらと視界が回って、ふざけたことを言っているそいつの顔も見られない。
目の前にいるのに。
友哉を殺した奴が、いるのに。
俺の母親が、狐の魔物が、人の心を知らないケダモノが。
友哉を殺して、友哉を食べて、友哉の体を自分のものにした奴がそこにいるのに。
俺の中には憎しみも殺意も何も湧いてこない。
ただつらい、悲しい、苦しい、痛い。
こういうのを何て言うのか、知っている。
―――――――― 絶望だ。
「友哉ぁ……」
会いたい……。友哉に会いたい。願うのはそれだけだ。
もしも友哉がいなくなったら、俺は凶暴なケダモノになるものだと思っていた。友哉を殺した犯人も、そうでないやつも、全部、全部、殺してまわって、俺が退治されるまできっと止まれないだろうと、そんな風に思っていた。
でも、違った。
何も出来ない。
息をするのも苦しくて、立ち上がることも出来なくて、声を出すこともつらくて、心臓が痛くて、ひどく痛くて。
友哉、友哉、友哉友哉友哉友哉友哉……。
友哉がいなくなっても、俺は世界を滅ぼしたりできないんだ。
友哉がいなくなったら、俺自身が滅びるだけだったんだ。
友哉がいなくなったらもう、俺は、俺として生きていけないんだ。
子供の頃からの友哉の思い出ばかりが、いくつもいくつも浮かんでくる。
コツン、グッ、パチン、友情の合図を何百回してきただろう。
一緒にバカな話をして、一緒にゲームをして、一緒に勉強して、ずっと一緒に生きて来た。
どんなに怖いことがあっても一緒にいれば平気だった。
人生を振り返れば友哉の笑った顔ばかりが浮かんできて、俺がどんなに幸せに生きて来たのかを思い出させる。
テーマパーク、行きたかった。友哉が行きたいところに、全部行きたかった。友哉がしたいことを、全部やらせてあげたかった。
いっぱい大好きだって言っておけばよかった。
でも、もう会えない。
友哉がいなくなっても、俺はまた笑えるのかな。
もう何もおかしくないし、何も楽しくないのに、笑う意味があるのかな。
一緒に笑ってくれる友哉がいないのに、笑う必要なんてあるのかな。
友哉がいなくなったら、遊ぶ意味があるかな、勉強する意味があるかな、バカな話をする意味があるのかな。
友哉がいない世界で、ご飯を食べる必要があるかな、眠る必要があるかな、息をする必要があるのかな。
きっともう、意味も必要もないよね。
「そっか……俺、死んじゃうんだ……」
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