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「ええ、なんか言った?」
友哉に取り憑いたそいつが、ソファから降りて俺の前に屈んだ。
大好きな友哉の顔が目の前にあって、俺はまたボロボロと泣き崩れた。
「ともやぁ…………おれ、おれ……しんじゃうよぉ……」
俺が子供みたいに甘えた声を出せば、友哉は絶対に抱きしめてくれたのに。
「ともやぁ……」
中身が違うと分かっていても、俺は最後に友哉の顔を見つめた。
「俺はもう……息をするのをやめるね……鼓動を打つのもやめる……俺、もう生きるのをやめるよ。友哉……」
「あきらちゃん?」
「友哉、大好き、さよなら」
―――― どくん。
「あ」
友哉の体がぐらりと揺れた。
友哉の口が大きく開いて、びっくりしたみたいに尻もちをついた。
「あきら……? おい何だよ、さよならって! 何があった?!」
友哉の口から、友哉の声が聞こえた。
『何よ今の! 何をしたのよ! ちょっとどういうこと!』
友哉の背後で黒髪の女が叫んだ。
俺は大きく息を吸った。
俺の胸がドキドキと力強く鳴り始めた。
「と、とも、ともや、あぐっ、うっ、ううー……!」
歓喜と嗚咽が一気に溢れ出して、呼吸困難になる。
友哉がびっくりしたように両手を前に出して俺に触って来た。手探りで俺のグチャグチャになった顔を撫でてくる。
「あきら、泣いているのか? どっか痛いのか?」
「ともや、ともやぁ」
「どうしたんだよ、苦しいのか?」
「だ……だい、じょうぶ……」
「ほんとか? どこも何ともないのか?」
友哉の手が俺の体をまさぐってくる。
「うん、だいじょぶ。あ、ははは、くすぐったい、だいじょぶだから」
「大丈夫なのに何で泣くんだよ」
「だってぇー……」
「はは、お前めっちゃ鼻水出てるぞ」
友哉は何か探すように自分の体を触って、眉をしかめる。
「なにこの服。あれ、俺のスマホとハンカチは?」
「友哉ぁ、俺のこと好き?」
「何でいきなりその質問? 好きに決まってんだろ」
「うん、うん、俺も好きぃ、大好きぃ……」
「はいはい、分かったからもう泣き止めって。いったい何があったんだよ」
「うん、えっとね……えっとー……怖い夢見た」
「え、夢? またかよ?」
「うん、また見た」
「はは、泣くほど怖かったのかよ」
「怖かったぁー、死ぬかと思うくらい」
「そっか、目が覚めてよかったな。ええっと、拭くもの無いからこれでいいか」
友哉はガウンの袖口で俺の顔を優しく拭ってくれながら、くすっと笑った。
「ほんと、夢を見て泣くなんて、あきらはいつまでも子供だな」
『はあぁー?』
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