7-(4) 呪いを終わらせる

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「好きだよ。あきらは俺の親友だし兄弟だし」 「うん、俺もおんなじ。友哉は親友で兄弟だよ」  友哉はちょっと困ったように瞬いた。 「改まって何だよ? なんか恥ずかしくなって来るんだけど」 「えへへ。ねぇ、友哉。叫んでいる声が聞こえた?」 「え? いや? 何か聞こえるのか?」 「女の人の声、聞こえない?」 「何も?」 「じゃぁ、ここに幽霊とかあやかしとかいる?」  友哉はきょろきょろと首を回した。 「いや、何もいないみたいだけど」 「やっぱり、そうなんだ……」 『は? 私が見えないっていうの? この大妖狐である久豆葉ヨウコの存在を無視するわけ?』  俺にとって霊やあやかしといったこの世ならざる存在は、大きく二つに分けられる。  友哉の目に見える存在と、見えない存在。  無害なそれと、有害なそれ。  俺は友哉の手を取って、ソファに座らせた。 「俺ね、友哉にお願いがあるの。一生のお願い、きいてくれる?」 『ちょっと! あきらちゃんまで私を無視しないでよ!』  俺は女を無視して友哉を見つめた。  友哉は不思議そうに首を傾げた。 「あきら。お前、さっきから変じゃないか?」 「お願い、友哉。もう悪夢を終わらせたいんだ」 「悪夢? さっき夢から覚めたんじゃないのか」 「……んっと、まだ見ている最中かな」  俺は後ろにいる女を見た。  不機嫌な顔で女が見返してくる。 「悪夢を呪いって言い換えてもいいよ」 「呪いか……」  この呪いを終わらせなければ。 『何が言いたいの、あきらちゃん』 「俺ね、生まれてきて良かったって思いたいんだ」  生まれた時から俺にかけられていた母の呪い。  十年前から友哉にかけられていた妖狐の呪い。 「長い長い呪いを終わらせたいんだ。お願い」  すがるように両手を強く握ると、友哉はふっと息を吐いてうなずいた。 「分かった。お願いって何だ? どうすればいい?」 「両手で耳をふさいで、目もぎゅっと閉じて、しばらくじっとしていて。俺が合図するまで絶対に動かないでね」 「なんか怪談みたいだな……」 「うん、そうかも」 「俺がそれを見たり聞いたりすると、呪いは解けないのか?」 「解けないというよりも、新しい怪談が始まっちゃうかもね」  新しい怪談に出てくるお化けの名は、久豆葉あきらという。  俺はその怪談を始めたくはないけど、友哉が俺を怖がった時点で否応なく始まってしまうものだから。 「友哉は俺を信じてくれる?」 「当たり前だろ」  友哉は右手でこぶしを作って俺の方へ突き出してくる。俺もこぶしを作って、それにコツンと軽くぶつけた。  コツン、グッ、パチン、友情の合図。  友哉は素直に目を閉じて、両手で耳をふさいだ。俺はベッドから布団を()いできて、友哉の頭の上から被せた。
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