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「あしたもいっしょにあそぼうね」
自分の出した声で目が覚めた。
フルカラーの夢から真っ暗な現実世界に戻って来て、ふっと息を吐く。
病室のベッドに座ったままあきらに寄り掛かるように眠ってしまったらしく、くっついた右側に安心するような体温を感じた。すーすーと優しい寝息がすぐそばから聞こえてくる。
起こさないようにそっと離れて自分のスマートフォンを探そうと思ったけれど、体がひどくだるくて重かった。起き上がるのを断念して、あきらに寄り掛かったままで少しぼんやりする。
いくつもの夢を渡ってきたみたいに、不思議な感情が胸を満たしていた。いっぱい泣いた後のような、いっぱい笑った後のような、心地よい疲れに似ている。
「おなか、すいたな……」
呟いた途端に、横であきらが動いた。
「俺もー。んー、ふぁあ」
欠伸をしながら伸びをしているようで、体の震えがぷるぷると伝わってくる。
「ふあ……」
俺もつられるように欠伸が出た。
「おはよ、友哉。夕御飯にする?」
「夕御飯? もうそんな時間なのか?」
「うん、窓の外真っ暗だよー」
あきらがベッドから降りようと動いた拍子に、寄り掛かっていた俺はぐらりと右側へ倒れそうになる。
「わ、友哉、大丈夫?」
「あ……ああ、大丈夫」
支えられて起き上がろうとしたが、思うように体が動かなくてまたベッドに体を戻した。
「なんだろ、たっぷり寝たはずなのに……」
「体、つらい?」
「いや、ちょっとだるいだけだ。気分は悪くない」
「お医者さん呼ぼうか?」
「大丈夫だよ。傷は痛くないし、どこも苦しくはないし」
自分で首元を触ってみたが、包帯はまるで今巻いたみたいにきちっと整っていた。
「そっか。ハルのお祓いが効いたのかな」
「ハル? 朝に来た拝み屋さんか?」
「うん。えっとね、友哉が寝ている内にいろいろあってね」
話しながらあきらが枕元でカチャカチャと何かを操作した。
「あ、もしもし? 大賀見友哉です。えっとー、ごはんを二人分用意して欲しいんだけど。友哉なに食べたい?」
「え? え、何って、とっさには思いつかない」
「そっか。えっとー、なんかおいしくて消化の良いものにして。うん、うんはい、大丈夫。お願いしまーす」
またカチャっと音がする。
多分、内線電話をかけたんだろう。
「30分くらいで出来ますって」
「すごいな……ほんとホテルみたいだ」
「うん、ここ特別室だから」
「特別室……」
「特別にお金がかかる代わりに、特別にサービスしてもらえる病室のこと。雪彦おじさんが友哉はこの病院で一番いい部屋に入れるってきかなくてさ」
「そう、か」
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