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俺が失明したのは大賀見家の責任だからといって、雪彦はいつも俺に良くしてくれる。でも、旧家でお金持ちの大賀見家と、庶民育ちの俺では価値観が違っていて、時々、途惑うこともあった。
「ここね、主なサブスクに入ってるし、Wi-Fiも使えるし、雑誌や新聞も頼めば買って来てくれるし、ルームサービスもあるし、ちょー至れり尽くせりってやつなんだよー」
俺とは違って、あきらは途惑うことなく受け入れている。
「えっと、大賀見友哉っていうのは?」
「ああそれ? 雪彦おじさんのせいだよ。友哉をここに連れて来た時、おじさんは友哉を自分の息子ですって言っちゃったから」
「なんでそんなこと」
「家族じゃないと出来ない手続きとか色々あったみたいだけど、ま、おじさんの願望だよね。友哉のことめっちゃ気に入っているから」
「でも、保険証の名前は倉橋って……あっ、保険証」
「うん、倉橋の家に置いたままでしょ?」
「そうか……。今度取りに戻らないとな」
「だいじょぶ。今日ね、来たんだよ」
「え」
「おじちゃんとおばちゃん。今日、お見舞いに来たの。友哉よく眠っていたから、着替えと果物を置いて帰ったけど。明日また来るって」
俺はちょっと黙った。
明日、父さんと母さんに会えると思うとすごく嬉しい。それは嘘じゃない。平凡な三人家族の中の平凡な子供でいた毎日が、懐かしさと共に一気に胸に押し寄せてくる。
でも、同時に会いたくないという気持ちも強く湧いてきて、俺の中でせめぎ合って、気持ちがグチャグチャになってしまう。
「友哉。何度も言ったけど、あれは俺のせいなんだよ。狐のあやかしって、無意識にまわりの人を誘っちゃうものらしいんだ。学校でもみんな普通じゃなかったじゃん。ファンクラブなんかを勝手に作られちゃったし、大勢で部室の前に立ってじっと見上げていたりして」
「うん……」
「佐藤さんと山田さんもそれでおかしくなったんだよ。本当は良識のある普通の人達なのに、急に女をアピールしてきて、友哉にひどい言葉をぶつけたりして。だから、おじちゃんとおばちゃんがたとえ俺に何をしたとしても、それは二人の本当の姿じゃなくて……」
「もういい」
「え」
「その話は聞きたくない」
少し大きな声を出してしまい、部屋にしんと沈黙が降りる。
あきらの寝具から抜けた髪を集めてうっとり撫でていた母さんの顔とか、父さんがあきらに抱きついてむりやり服を脱がそうとしたとか……自分の親が大事な友人に性的興味を持ったと思うと、どうしても嫌悪感が拭えない。
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