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『どうしてだよ、あきら……』
ドアの外から悲痛な声がする。
『どうして俺を……どうしてこんな……』
偽物の友哉は片手で血の流れる首を押さえて、弱々しく窓を叩いてくる。
「友哉、ごめん、ごめんなさい……」
偽物が完全に偽物ならこんなに混乱したりしない。偽物の姿は俺の願望を映していて、偽物の首から流れる血は俺の罪悪感を映し出している。
「頭を撫でてやろうか」
「え」
「歌を歌った方がいいかな」
友哉が少しおどけるように優しい声を出した。
「お前が何を見ているのかは分からないけれど、それは全部嘘だから。駐車場で山川さんが見た八尺様と同じだよ。いないと思えばきっと消える」
「きえる……?」
声が震えてしまう。
首から血を流す友哉が、泣きながらドアをひっかいてくる。キーキーと嫌な音がして、友哉の指先が血に染まっていく。
「うん、絶対に消える。怖い夢みたいなものだよ」
『あきら、ここを開けてくれ……助けて……痛いんだ。助けてくれ、あきら……』
窓ガラスをひっかく音に重ねて、俺を呼ぶ偽物の声が悲痛に響く。
偽物の黒い瞳が赤く染まり、目尻から血が流れ始める。
「夢……夢なら早く覚めたい」
俺の背中を友哉がそっと撫でてくれる。
俺は目を閉じて本物の友哉の髪に顔を近づけ、清浄な匂いを吸い込んだ。
「おまじない、しようか」
ポソリと場違いな単語が友哉の口から出て来た。
「おまじない……?」
「そ、怖い夢を見た時のおまじない」
友哉が微笑む。
友哉のまわりだけが、うっすらと柔らかな光に包まれている。
「覚えていないか? 雪彦さんの屋敷にいた頃のこと」
「覚えてる……」
友哉が俺にしてくれたことは、全部はっきりと覚えている。
「あの時のおまじないさ、めちゃくちゃ効き目があったろ?」
茶目っ気たっぷりに友哉が聞いてくる。
「うん……効き目、めちゃくちゃあったね……」
「俺に除霊や悪霊退治の力は無いけど、あきらの悪夢を祓ってやることは出来るよ。俺はあきらのお兄ちゃんだから」
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