31人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
(4) 友哉の目に見えないもの
ハルはいつもの法衣ではなく、清楚な白いワンピースを着ていた。いつもはすっぴんなのに、薄く化粧までしている。
「蓮杖ハルが助けに来たぞ! 倉橋友哉、私の胸に飛び込んでくるがよい」
「ありがとうございます。でも飛び込みません」
笑って言いながら、友哉は無防備にガチャリとドアを開いた。
土の臭いのする熱気と、セミの声が飛び込んでくる。
窓ガラスにびっしりと付いた血の手形も、隙間からぎょろりと覗くあの目玉も、偽物の友哉の姿も消えていた。
俺は運転席で身をかがめて、ハルを下からじとーっと睨んだ。
もう三十は超えているはずだが、相変わらず作りものみたいに整った顔立ちの女だ。俺には尊大な表情しか見せないが、友哉を見つめる表情はまるで乙女だ。
「お前、本当にハル? 証拠は?」
「はぁ? いきなり何を言うか」
「また偽物かも知れないじゃん。お前が本物のハルだって証明してみろよ」
「またって何だ?」
「あの、偽物が出たそうなんです。俺には見えなかったんですけど」
「うーむ、証拠と言われてもな。あっ、スリーサイズを教えてやろうか?」
「そんなの元から知らないから証拠にならないじゃん」
「倉橋友哉は知っているぞ」
「え? そうなの?」
困ったように友哉がうなずく。
「あー、うん、知ってる」
「なんで?」
「むりやり教えられたことがあるから」
「バスト75、ウエスト53、ヒップ81だぞ」
「あ、はい。本物ですね」
「ほら」
「何そのドヤ顔」
「ナイスバディであろうが」
あまり大きくない胸を反らして、ハルが自慢げにアピールしてくる。
「イチヨン、ゴ、イチゴロク、イチニ」
俺が呟くと友哉が焦ったように顔をこっちに向けた。
「あきら、そういうことを言うな」
「136、145、14、5、156、12」
「なに? なんだ今のは、暗号か?」
「いえ、これはてんじの……」
説明しようとする友哉を遮って、俺は大きい声でまた数字を口にした。
「5、136、16!」
「こら、あきら」
「1、2436、25」
友哉がぷっと噴き出した。
「な、何だ、何を言った。説明しなさい!」
「さぁねー。俺と友哉の秘密だもん」
「もんって何だ、かわいくないぞ、久豆葉あきら!」
「1、2436、にぃごぉ」
「ぶふっ」
俺の言い方が笑いのツボに入ったのか、友哉が必死にこらえている。
「な、何がおかしい」
最初のコメントを投稿しよう!