(4) 友哉の目に見えないもの

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(4) 友哉の目に見えないもの

 ハルはいつもの法衣ではなく、清楚な白いワンピースを着ていた。いつもはすっぴんなのに、薄く化粧までしている。 「蓮杖ハルが助けに来たぞ! 倉橋友哉、私の胸に飛び込んでくるがよい」 「ありがとうございます。でも飛び込みません」  笑って言いながら、友哉は無防備にガチャリとドアを開いた。  土の臭いのする熱気と、セミの声が飛び込んでくる。  窓ガラスにびっしりと付いた血の手形も、隙間からぎょろりと覗くあの目玉も、偽物の友哉の姿も消えていた。  俺は運転席で身をかがめて、ハルを下からじとーっと睨んだ。  もう三十は超えているはずだが、相変わらず作りものみたいに整った顔立ちの女だ。俺には尊大な表情しか見せないが、友哉を見つめる表情はまるで乙女だ。 「お前、本当にハル? 証拠は?」 「はぁ? いきなり何を言うか」 「また偽物かも知れないじゃん。お前が本物のハルだって証明してみろよ」 「またって何だ?」 「あの、偽物が出たそうなんです。俺には見えなかったんですけど」 「うーむ、証拠と言われてもな。あっ、スリーサイズを教えてやろうか?」 「そんなの元から知らないから証拠にならないじゃん」 「倉橋友哉は知っているぞ」 「え? そうなの?」  困ったように友哉がうなずく。 「あー、うん、知ってる」 「なんで?」 「むりやり教えられたことがあるから」 「バスト75、ウエスト53、ヒップ81だぞ」 「あ、はい。本物ですね」 「ほら」 「何そのドヤ顔」 「ナイスバディであろうが」  あまり大きくない胸を反らして、ハルが自慢げにアピールしてくる。 「イチヨン、ゴ、イチゴロク、イチニ」  俺が呟くと友哉が焦ったように顔をこっちに向けた。 「あきら、そういうことを言うな」 「136、145、14、5、156、12」 「なに? なんだ今のは、暗号か?」 「いえ、これはてんじの……」  説明しようとする友哉を遮って、俺は大きい声でまた数字を口にした。 「5、136、16!」 「こら、あきら」 「1、2436、25」  友哉がぷっと噴き出した。 「な、何だ、何を言った。説明しなさい!」 「さぁねー。俺と友哉の秘密だもん」 「もんって何だ、かわいくないぞ、久豆葉あきら!」 「1、2436、にぃごぉ」 「ぶふっ」  俺の言い方が笑いのツボに入ったのか、友哉が必死にこらえている。 「な、何がおかしい」
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