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「すいません、ハルさん。俺に付き合ってあきらも点字の勉強をしたので」
「点字?」
「でも、うざいとかアホとか小学生レベルのことしか言っていないので気にしないでください」
「はぁ?」
「もうー、ハルには教えなくていいのにー」
俺がすねてみせると、呆れたように友哉が笑う。
「お前な、いつまでも子供みたいなことを言ってるなよ」
「だっていつまでも子供だもーん」
俺を子供みたいだと友哉が言うたびに、俺はちょっと安心する。
俺が子供でいる限り、友哉は俺を守ろうとするから。
「で? さっきのあれ、友哉のおかげで幻覚は消えたけど、退治できたわけじゃないよね?」
「いや、まだだな。私とこやつが近付くのに気付いて、一時退散したのであろう」
ハルの後ろからのっそりと銀色の狼が姿を現す。
「銀箭!」
顔を寄せてくる狼の首を両手で抱いて、友哉はひんやりとした毛並みに頬ずりをする。周囲に散っていた俺の式狼も走って戻り、車体をすり抜け友哉に懐いて行く。
「わわ、待てって! ちょっと、みんなっ」
「あはは、友哉、モフモフに埋もれてる」
「笑ってないで助けろ」
「はーい。みんな戻って」
俺が呼ぶと、銀箭以外の狼は俺の影に戻って来た。
「倉橋友哉、狼ばかりかまっていないで私とも再会のハグをしよう」
ハルが両手を広げていることに気付かず、友哉は首を傾げた。
「先月も会ったばかりですよね」
「良いではないか。久豆葉あきらばかりを甘やかしおって。さっきのおでこトントンは何だ?」
「うぇ……見ていたんですか」
「うむ、見てた。うらやましい」
「うらやま……あ、あれはただのおまじないで……。そ、それよりGPSって何ですか。俺のスマホに何を仕込んでいるんです? 消去してくださいよ」
後半を早口で言って、友哉がポケットからスマートフォンを出す。
「消去の仕方が分からん」
「ええ? じゃぁどうやって仕込んだんですか」
「大賀見雪彦が、それに追跡アプリとやらを入れてくれたのだ」
「雪彦さんが? どうして」
「倉橋友哉の身の安全のためだ」
「俺の?」
「久豆葉あきらなどより、よっぽど私の方が頼りになるということだな。どうだ、倉橋友哉。今からでも私の所へ来ないか? 安全だし快適だし、贅沢もさせてやれるぞ」
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