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友哉を助手席に乗せるために、18歳になってすぐに免許を取った。父親の遺産の一部を使って、大きめのワゴン車を即金で買った。色とか形にこだわりはないので、乗り心地が悪くなくて、荷物がたくさん載せられて、車中泊のしやすいものを選んだ。
良い買い物をしたなと思う。
電車での移動も旅気分で悪くないけど、車だと友哉が安心してウトウトと眠ってくれる。数ヶ月ごとの引っ越しも以前よりずっと楽になった。
「待ち合わせ時間は12時だったよな」
友哉がズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、画面に触れる。
『8月7日 11時37分』
音声読み上げ機能が、画面に表示されている文字を早口で読み上げた。
友哉の左手首にはこの前俺が贈った触読式時計がはまっているけれど、スマートフォンの方が使い慣れているのでついそっちを触ってしまうらしい。
「ちょっと早く着いちゃったよね。何か飲む? 色々買ってあるよ、ぬるいけど」
「水あるか?」
「あるよー」
俺は後部座席に置いてあるエコバッグから天然水とメロンソーダを取った。
「はい」
「サンキュ」
友哉に水を渡して、俺はメロンソーダのふたをひねった。小さくプシュッと音が鳴って、友哉が目を見開く。
「え、炭酸?」
「うん、メロンソーダ」
「ぬるい炭酸?」
「だいじょーぶ。甘いものはぬるくても美味しいんだよー」
「まじか」
「まじだよ。飲む?」
「はは、いやそんなの飲まないって」
友哉は苦笑しつつ自分のペットボトルのふたをひねった。でも、ふたは開かない。友哉は困った風に首を傾げ、もう一度力を込めてチャレンジする。プチ、チ、チ、とかすかな音と共に、やっとふたが開いた。
俺も見ているだけで妙に緊張してしまったけれど、友哉の握力がまた落ちていることについてはわざわざ口には出さなかった。
「あきら、あの人達の名前をもう一回確認したいんだけど」
友哉が水を少し飲んでから、アパートの方へ顔を向ける。
「りょーかーい」
俺は自分のスマートフォンを操作して、リンリンでのハルとのトーク画面を開いた。
「ええとまず一人目はね、3年前の8月、工事業者のアルバイトだった横山玲音さん当時19歳」
「ヨコヤマレオンさん、字は?」
「ええとね、横山は普通の横の山で、レオンは王編に今みたいな字の玲と音っていう字で玲音」
「横山玲音さん」
友哉が確認するように名前を呟く。
「俺らとタメだね」
「3つ上だろ」
「生きていればそうだけど」
「ああ……そうか……そうだよな」
会ったことも無い奴が死んで、どうして友哉は同情できるんだろう。
理解できないけれど、理解できていないことを知られたくはない。
俺は同情しているふりをして声のトーンを少し低めにする。
「アパートの建物はほぼ完成していて、内装の仕上げをしているところだったんだけど、昼休憩から戻ると横山さんだけいなくなっていたんだって。でも、もともとサボりがちだったから、仕事が嫌でバックレたのかと思われて、真剣に探す人はいなかったみたい」
「親は?」
「両親とも早くに亡くなっていて親戚とも付き合いはなし。天涯孤独ってやつ? 俺と同じだ」
「あきらには雪彦さんがいるだろ」
「んー……まぁね」
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