(4) 友哉の目に見えないもの

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「なんで、俺の靴」 「ごめん、でも汚れがひどいからさ」  泥のべったりと付いた靴をハルに見せる。ハルは眉をしかめて、捨てろというように首を振った。 「うむ、これは高級車なのだ。泥だらけにされても困るからな」 「ああ……そうですよね。分かりました」  俺は音を立てないように、泥の中に靴を置いた。 「とりあえず、ドア閉めるよー。手と足引っ込めて―」  声をかけてからドアを閉める。 「そっちのワゴン車の鍵をくれるか」  ハルに言われ、俺はポケットから鍵を出して放った。パシッとハルがうまくキャッチする。 「教団の人に取りに来させるの?」 「ああ。車は洗浄してのちに返す」 「それって大丈夫なの? ハル以外は霊力ほとんど無いんでしょ?」 「ここにはもうあれはいない。力の残滓が多少こびりついているだけだから、私の霊力を込めた数珠で十分に霊障は防げる。それに、そもそもあれの標的は倉橋友哉だろう? 倉橋友哉を知った怪異が、普通の人間などに興味を持つか?」 「ま、それもそうか……」  ぐったりとしている友哉を見てハルが眉をひそめる。 「だいぶ疲弊しているようだな」 「うん……引っ越し当日はただでさえ疲れるのに、今日はかなりハードだったからね。つかハルー、なんつー物件を紹介してくれるんだよ」 「うむ、あれは一応、元神様だからな。世に知られた有名どころではないが、力もそれなりにある。信仰されなくなって悪霊に成り下がったのなら放ってはおけんだろう」 「そういうのってハルの管轄じゃん。なんで友哉に」 「せっかく力のある元神様なのだ。祓って消し去るのは惜しい気がしてな」 「だから?」 「話が通じるなら穏便に攻略したかった。だがあれはもうダメだな」 「攻略って? 意味が分かんないんだけど」 「ま、平たく言えば、祓うのではなく従えたかったのだ。あれの仕組みを読み解いて、私の命令で動く私だけの式にできればと思っていた」 「式……俺の式狼みたいな? そんなこと可能なのか?」 「お前の先祖が成功させているのだ。私にできないと思うか?」 「すげぇ自信」 「実際に、これまで小物をいくつか従えさせた。いくつかは失敗したが」  俺は首を傾げる。 「やっぱり意味が分かんない。すでに成功させたことがあるんなら、またそれを試せばいいだろ? なんで今回は友哉を巻き込んだんだ?」 「あの元神が今、攻略可能な状態なのかどうかがいまいち分からなくてな」 「はぁ?」 「どうやら私はあれに嫌われたらしく、何度あの部屋を訪れても会うことが叶わないのだ。それでまぁ、倉橋友哉の目を借りようと」 「友哉をリトマス試験紙にするなよ」
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