(4) 友哉の目に見えないもの

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 ハルが、きょとっと瞬きする。 「なるほど、リトマス試験紙とはうまいことを言う」  友哉の目に見える怪異は基本的に意思疎通が可能で、友哉の目に見えない怪異はその逆だ。  友哉の目に見える怪異はほとんど悪意を持っていないが、友哉の目に見えない怪異はその逆だ。  確かに、話が通じる相手かどうかを見極めるには友哉に会わせるのが一番早いけれど……。 「あいつの姿も声も友哉は認知できなかったよ……」 「つまりはもうすでに完全な悪霊だということだな」 「そうだよ。悪霊を友哉に会わせるなんて! なんで前情報も寄越さず、立ち合いもしなかったんだ?」 「先入観なしで判断して欲しかったのだ」 「友哉を危険にさらすようなことをしても?」 「私は力が欲しいのだ」 「力?」 「人の領域からはみ出すほどの力だ」 「なにそれ? アニメの悪役みたいなことを言っちゃって、世界征服でもする気?」 「いや……私の望みはそんなことではない」  ハルがちらりと車内の友哉へ視線を向けた。  友哉は力無くシートに寄り掛かって、青白い顔で目を閉じている。 「まさか、友哉のためとか言わないよね?」 「いや、私のためだ。私の望みだ」  ハルの望みが何か分かる気がした。多分、俺の望みと似ているはずだ。 「でも友哉は……そんなこと望まないだろ」  ハルはふっと笑って目を細めた。 「随分と人間のようなことを言うようになったな」 「俺は人間だよ」 「ほう……?」 「ほう、じゃねぇよ。悪役みたいな顔するな」 「な! 悪役だと?」  ハルは両手で自分の頬をぎゅっと押さえた。 「こんな美女を捕まえて何を言うか」 「化粧崩れてるよ」 「な、なに?」  ハルが慌ててサイドミラーの前に顔を寄せる。  俺はそんなハルを放って置いて、車の後ろを回って後部座席の反対側のドアを開いた。スニーカーを脱ぎ捨てて友哉の隣に乗り込む。
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