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「どこが崩れておるのだ? 綺麗ではないか」
大声で言いながら、運転手にエスコートされて助手席にハルが乗ってくる。ハルも、後から乗って来た運転手も、履物を道路に脱ぎ捨てていた。
「はいはい、教祖様は今日もお美しいですね」
「からかうな。好いた男のための精一杯のお洒落なのだぞ」
ハルは体をひねって席の間から顔を出す。友哉を見る顔は少し赤らんでいる。
「それって意味あんの?」
友哉には顔も服も見えないのに。
「あ、あるぞ。ちゃんとある。見た目を変えることによって言動や雰囲気もかわいくなると聞いたのだ」
「へぇー」
「へぇって……。ま、まぁよい。倉橋友哉の様子は?」
「すっかり寝ちゃってるよ」
汗で貼りついた前髪を指で横へ流しても、友哉は目を覚まさない。
「ゆっくり休ませたいんだけど」
「すでに部屋は取ってあるし除霊もしてある」
「それは準備のよろしいことで」
「いや……。ここまでとは思っていなかった。私の考えが甘かった」
ハルは助手席にきちんと座り直してシートベルトを締めた。
「出してくれ」
ハルの指示で外車が静かに走り出した。
銀箭は泥に汚れたワゴン車の前に立ち、見張りでもするかのように田んぼの方を睨んでいた。
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