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「ああ。昇華させるには、信仰されていた当時のままにお祀り申し上げ、元神様に満足していただいてから手順通りに解体しなければならなかった。この地域は完全に信仰が廃れてしまっているから、下調べにも時間がかかっていてな。あれは田から山まで七つの鳥居と七つの祠を持っているということまでは分かったが、まだ儀式の全貌は分かっていないのだ。だが、消去させるだけならもう調べる必要もない。物理と霊力の力押しで済む」
「霊力は分かるけど、物理って?」
「ブルドーザーとかショベルカーとかの重機だな。鳥居も祠もご神体ごと全部潰す」
「まじ? 反撃されたりしない?」
「もちろんされるが、こちらも教団総出で対抗するさ。我らは本来、悪霊退治が専門だからな」
土地の神として崇められてきた存在を、そのまま神として昇華させるか、悪霊として退治するのかをハルの一存で決めてしまう。それはどこか傲慢な気がするけど、あれは友哉の目に映らなかった。つまり意思疎通の出来ない、悪意の塊ということだ。祓ってしまうことに反対する理由はない。
ハルは友哉のシャツをぎゅっとつかんで宙を睨んだ。
「悪霊に成り下がった分際で倉橋友哉を欲しがるとは言語道断、この蓮杖ハル様が塵ひとつ残さず消し去ってくれるわ!」
「わー、過激」
俺がおどけて拍手すると、ハルはニヤリと唇の片端をつり上げる。
「ハルー、また悪い顔してるよ」
「なにぃ、まだ倉橋友哉成分が足りなかったか」
ハルは軽い口調で笑ってから、友哉の胸にぽふっと頭を乗せた。
他の女が友哉にべたべたするのは許せないが、なぜかハルが近寄るのはそこまで不快じゃない。多分、ハルの求めているものが肉欲とは無縁のものだからかもしれない。
「はぁ、愛しいなぁ、倉橋友哉。毎日会えれば良いのだがなぁ」
「ハルにはあげないよ」
「お前のものでもあるまい」
「俺のものだよ」
「は……?」
「友哉は俺のものなの。5歳の時からそうだったし、死ぬまでずっとそうだから。あ、違った。死んでからもそうだから」
ハルは友哉の胸に頬を押し付けたまま、じとっと見上げてくる。
「倉橋友哉がそれを聞いたら何と言うか。お前の本性を教えてやりたいものだ」
「友哉は多分、なんだよそれって笑うだけだと思うけど」
ハルはちょっと顔を上げて友哉の顔を見た。
「確かにな……」
友哉は俺を本気で疑ったり、本気で怒ったり、本気で嫌ったりしたことが無い。幼馴染で親友で兄弟、俺と友哉は互いの存在が何よりも近いのだ。
「あけて」
細い声がして、俺はふと窓の方を向いた。
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