(4) 友哉の目に見えないもの

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「はあぁ? そりゃ友哉は俺に甘いから、泣いて頼めばやらせてくれるかもしれないけど、でもさぁ、そういう欲求が無い友哉にとっては、それってほぼ拷問じゃん? そんなひどいことを俺はでき……」 「何を勘違いしておる」  バシッと頭を叩かれた。 「痛って!」 「誰も犯せなどと言ってはいない」 「え」 「お前の穢れた体液を飲ませるくらいで良いのだ」 「体液? はぁ? 体液とかいやちょっと、ほんとにそんなこと出来ないって」 「このスカタン!」 「痛った! つかスカタンってなに?」 「スカタンはスカタンだ! このまぬけ! 何やら下品なことを思い浮かべたらしいが、まったく違うぞ! 血液だ、血液でいい。ほんの数滴の血を飲ませるだけで、十分に汚れる。お前はケダモノの血を引いているからな」 「じゃぁ初めからそう言ってよ」 「お前がおかしな方向に想像したのが悪い」  清らかな友哉を汚すとか体液を飲ませるとか言われたら、普通はそういう行為を思い浮かべると思うけれど、そんなことを言うとまたケダモノだと責められるだけなのでやめておいた。 「えっとじゃぁ、刃物ある?」 「自前で立派な牙を持っているだろう?」  ハルは冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、俺の手に持たせた。 「指を噛んで、これに数滴たらせば良い」 「ハル、なんか冷たくない?」 「お前に優しくする必要があるか?」 「ひどい」 「倉橋友哉がきちんと手綱を握っていると思えばこそ、お前のような半妖を見逃してやっているのだ。退治しないだけで十分に優しいと思わないか?」 「へいへい、ハル様はお優しいことで」  俺はペットボトルのふたを開けると、右の人差し指を尖った犬歯でプツリと噛んだ。指先を飲み口の上に持って行って、血をたらす。  ぽとん、ぽとん、赤い液体が水に溶けていく。 「あきら」  ふいに友哉の声に呼ばれた。 「あきら、怪我をしたのか?」 「え、友哉?」  いつの間に目を覚ましたのか、ベッドの上に体を起こして、友哉は焦ったようにこっちに両手を伸ばしてくる。 「なんで? 血の臭いがする……!」 「え、分かるの? まぁちょっと指先切っただけでそんなにたいした傷じゃな……」 言いながら近づくと、ベッドの上に立ち上がった友哉が急いでこちらへ来ようとしてぶつかり、ペットボトルを弾いた。 「あっ」  ベッドの上に落ちたそれは、びしゃっと布団を濡らして転がっていく。  自分も濡れたのに友哉はそのまま俺の手をつかんできて、ひどく動揺したように瞳をさまよわせた。 「どうしてだ」 「え、なにが?」 「何も見えない、真っ暗だ……!」 「え!?」
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