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「あきら、大丈夫か? また『あれ』が……」
「ちょっと友哉、どうしたの?」
「『あれ』に襲われたのか?」
友哉は何かから俺を守るように覆いかぶさってくる。
「倉橋友哉? どうした?」
ハルが声をかけると、友哉の体がビクッと硬直した。
見開かれた目がまた不安定に揺れて、急にハッとしたように俺から手を離した。
「……ハルさん……?」
「うむ、蓮杖ハルだ。あやつはとりあえず祓ったから、しばらく大丈夫だぞ」
「あ、俺」
友哉がすとんと気が抜けたみたいにベッドに座り込む。蒼ざめていたその頬が、みるみる赤くなっていく。
「俺、夢を見ていたのか……」
困ったように頬を押さえて、友哉は苦笑いした。
「うわ、こんなに盛大に寝ぼけたの初めて」
俺とハルは顔を見合わせ、床まで転がったペットボトルを見る。
血を混ぜた水はこぼれてしまった。
「ええと、夢って?」
「それより、あきら、どこを怪我したんだ?」
「ああ、右の人差し指だよ。こんなのなめときゃ治るから……」
「どれ、こっちに見せろ……っても、見えないんだけど」
友哉は俺の右手を取ると、手探りで人差し指をつかんでためらいもなく口に含んだ。血を舐め取るように軽く吸うと、指をつかんだまま俺に言った。
「俺のスマホ取ってくれるか」
「う、うん」
びっくりしながら渡すと、友哉はブック型のスマホカバーのカードポケットから絆創膏を取り出して、器用に指に巻いてくれた。
「痛くないか」
「え? えっと、大丈夫」
俺とハルはまた顔を見合わせる。
とにかく、血を飲ませるという目的は果たしたけれど。
今ので効果があるのか確かめたくて目配せすると、ハルはなぜか少し赤面しながらうなずいた。
「で、では、行こうか」
「そうだね」
「どこか行くのか?」
「うん。友哉、ここにもあれが出たからまだ宿を変えるんだって。新しいスニーカー、ここにあるから」
友哉の手を導いて、ベッド横に置かれたスニーカーに触らせる。
「うちのものが買ってきたからデザインは気に入らないかも知れないが、サイズはあっているはずだ」
俺も友哉もハルに足のサイズを教えたことは無いんだけど、きっと雪彦からの情報なんだろう。
「俺はあんまりファッションとかに興味が無いので大丈夫です。ありがとうございます」
ハルの方へ頭を下げて、友哉はスニーカーに足を入れる。
失明する前は量販店の無難な服ばかりを着ていた友哉だけど、今着ているのは雪彦から贈られた数万円もするブランドもののポロシャツだ。雪彦も俺も値段を教えないので、友哉はそれを量販店の安物だと信じていた。
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