(4) 友哉の目に見えないもの

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「あっ、別にあの頃が不幸だったわけじゃないけどさ」 「うん……」  友哉は失明してしまっても体が弱くなってしまっても、現在(いま)の自分達は幸福であると本気で思っている。  現実を受け入れられていないのは俺の方だった。 「高校生だった期間って、なんかすっげぇ怒涛の日々だったけど、今思うと楽しいことばかり思い出すんだよな。もう3年……いや4年前か、懐かしいなぁ。ま、あの頃も今も、俺はあきらと一緒にいるだけで毎日楽しいよ」 「うん、俺もー。あ、エレベーター来たよ」  三人で乗り込むと、ハルが無言で九字を切った。密閉空間だから警戒したんだろう。俺は皮膚がピリピリして不快だったが、友哉の安全の為なので我慢していた。 「倉橋友哉。その話、もう少し詳しく教えてくれるか」 「高校生の頃のことですか」 「ああ、倉橋友哉の青春時代だな」 「青春って……。ハルさんが聞いて面白いような話じゃないですよ。俺達、ほぼ毎日ゲームか勉強しかしていなかったし。な?」 「うん、そうそう」  その頃の俺はまだ、自分が100%人間だと信じて疑わなかった。父のことも母のことも知らなかったから。 「好いた男のことは何でも知りたいのだ」 「またそんなこと言って。俺、女性にモテるような要素、ひとつも無いのに」  チン、と音が鳴ってエレベーターが止まり、俺達はロビーへ出た。 「倉橋友哉は自分の魅力を何も分かっていないな。そこが愛しくもあるが」 「はぁ……」  友哉が困ったように、曖昧に笑った。  高校生になったばかりの頃の友哉なら、女性にアプロ―チをされたら喜んだかもしれない。でも、今の友哉は恋愛もセックスも求めていない。 「困った顔をしなくてもよい。私は時々会ってくれて、話をしてくれたらそれで良いのだ」  ハルの運転手が近付いて来て準備が出来たことを告げる。 「うちの教団の者がチェックアウトを済ませて車も用意している。次の宿につくまで、車の中でその昔話をしてくれないか」 「まぁ、いいですけど。あきらもいいか?」  友哉が俺の方へ顔を向けてくる。  友哉の高校時代について話すということは、俺の高校時代もハルに話すことになる。 「うん、いいよ」  俺達だけの思い出をハルに聞かせるのは(しゃく)だったけど、俺も少し聞いてみたかった。友哉の目から見たあの頃の俺達、友哉の目から見た久豆葉あきらという存在のことを。
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