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大賀見雪彦は俺の父親の従弟で、現在の大賀見家当主だ。形式的には俺の後見人だが、実際は主従のような関係だった。だから肉親という気持ちはほとんどない。俺にとって家族は友哉だけだ。
スマートフォンから顔を上げて、隣の友哉をそっと見る。まるで見られている事に気付いたみたいに、友哉は優しい顔で俺の方を向いた。
「あきらには俺もいる。血はつながってなくても兄弟だろ」
俺が言って欲しいことを照れもなく言い切り、友哉はこぶしを握って軽く突き出してきた。
「うんっ」
俺もこぶしを握って、そこにコツンとぶつける。すかさず指同士をぐいっと握り合って、手を開いてパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン。
子供の頃からやっている友情の合図。
込み上げてくるものを我慢して、俺は裏がった声を出した。
「ともやおにいちゃんっ、だいすきっ」
「あははは、なにその裏声」
「ともやおにいちゃんのかわゆいおとうとだよっ」
「あーはいはい、かわゆいかわゆい」
「わー、ぼうよみー、ひどいよおにいちゃんっ」
「いいからもう普通の声に戻して」
「はーい」
「はい伸ばし過ぎ」
「はーーーーーーーい」
「あきら」
「はいはーい」
「続き」
友哉の声が少しだけ怖くなったので、俺は悪ふざけをやめた。
「えっとね、次は2年前の8月、104号室に入居した親子3人だね。近田信夫さん当時43歳、妻の尚美さん当時40歳、娘の花梨さん当時16歳。信夫さんが連絡なしに会社に来なくなって、電話も出ないということで同僚が心配して見に来たらしい。インターフォンを押しても応答が無いから、裏側に回って見ると窓にいくつもお札が貼られているのが見えて、これはおかしいと思って警察に通報したらしいよ。夜逃げじゃないかとか言われたらしいけど、借金も無いし失踪の理由が分からなかったみたい。漢字はね、近いに田んぼで近田で……」
友哉は目を凝らすように104号室の方向を見ている。その扉とか壁とかアパートの建物はその目に映らないから、友哉はダイレクトに霊だけを見ているのだ。
「近田信夫さん、尚美さん、花梨さん……。近田さん夫婦は見た目で分かるけど、若い女の子はあそこに三人もいて、どの子がどの子か分からないな」
「ハルからのメッセージには写真も添付されているんだけど……」
もちろん、友哉の目に画像は見えない。
「どんな感じだ?」
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