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1-(1) 『あれ』
放課後は毎日、一緒に帰る。
体も心も健康な男子だけれど、部活には入らないし、アルバイトもしない。門限があるわけじゃないけれど、ファストフード店にもカラオケ店にもゲームセンターにも寄り道しない。
高校生になったばかりの俺とあきらは、きっと今どきの小学生よりずっと狭い世界を生きている。
「なー、友哉―」
あきらはどこからか拾ってきた棒でガードレールを叩きながら俺を呼んだ。身長は俺より少し高いのに、大きめの制服の袖と裾をまくり上げてあるせいでかなり幼く見える。
「ん、なんだ?」
「もういっそのこと、友哉とお付き合いシテイマスって偽装宣言しちゃっていい?」
「は?」
突拍子もないことを言われて、俺の脳が一瞬フリーズしてしまう。
「だからー、仲良さげにおててつないで、俺のカレシですーって」
「いやバカやめろって! 俺だっていつかは彼女が欲しい」
「えー」
「えーって何だよ」
「べっつにー」
「どうせ俺はモテないよ」
「まぁ、友哉がモテないとか、分かり切っていることは置いといて」
「おい」
「偽装宣言したら、しつこいお誘い断るのにちょうどいいじゃん?」
「もうちょっとましな言い訳を考えろ。ええと、ほら、難関大学を受けるために勉強に専念したいとか」
「いやー、うちは大学行くような余裕はないし。卒業したら働くから」
「そっか」
「あーあー、ほんとめんどくさいなぁ。つうか、あんなぐいぐい来られるとめんどくさい通り越して、むしろ怖い」
あきらは中学時代からモテていたけど、高校に入ってからさらに女子に騒がれるようになった。
色素の薄い端整な顔立ちが今話題の若手俳優に似ているらしく、一年生だけじゃなく先輩達も、あきらの顔を見にわざわざ一年生の教室にやってくる。さらには他校にまでファンがいるらしく、見慣れない制服の女の子達が校門前で出待ちするようになっているほどだ。
「かわいい女子高生に毎日囲まれて羨ましい悩みだな」
「そう思うなら代わってくれぇい」
「代われるか」
入学して二、三日は様子見をしていた彼女達だったが、一週間ほどで放課後のチャイムと同時にわらわらとあきらに群がっていくようになった。
鼻息の荒い女の子達がちょっぴり怖いので、こちらから助けにはいかない。女子がいなくなった教室で、俺はのんびりとあきらを待つのが日課になっている。
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