1-(1) 『あれ』

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 うちの高校は各学年5クラスあって、あきらは1年D組、俺はA組だ。  あきらは必死に各種お誘いを断りつつ、きゃぴしゃぴした群れを懸命にかいくぐって、俺のいるA組を目指してくる。 『ええと、トモダチ登録? ああ、ごめんね、スマホ持っていないから』 『え、これからカラオケ? ごめん、友哉と約束があるから』 『土曜と日曜? あー、ごめん、家の用事があるから』  毎度毎度同じように断られているのに、彼女たちのメンタルは強靭(きょうじん)だ。毎日手を替え品を替え、難攻不落のあきらに果敢にも挑んでいく。  そして教室の入り口で俺を見つけると、あきらはダッシュで駆け寄ってきて、たいして大きくもない俺の影にぴたっと隠れようとする。なぜか二人で一緒にいる時は女子がからんで来ないので、あきらは俺を盾にするようにして、いつでも二人連れ立って帰るのだ。  わざわざ偽装交際宣言なんかしなくても、すでにそういう類いの噂は出始めているし、とばっちりで俺が女子から睨まれているし…………ああ、俺に春が来る日は遠い。 「友哉―、昨日の『ドラゴンハンター』撮った?」 「うん、全話録画してある」 「良かったー、後で見せて。うちのテレビ調子悪くて」 「宿題終わってからな」 「分かってるって」  あきらが常に俺と一緒にいるのは、別に女子よけのためという理由ではない。出会った時からずっと、可能な限りの時間を一緒に過ごしてきた。  だって、ひとり(・・・)より、ふたり(・・・)の方が、怖くないから。  でもきっと、これから大人になればなるほど、四六時中そばにいるのは難しくなっていく。このままではいられないし、このままではいけないと思う。  溜息を吐いて横を見ると、あきらはアニメの真似をして棒切れをぶんぶんと振り回していた。 「ドラゴンハンター今日もゆく! 目指すは遥か竜の城、速度は全速、いざ参る!」  見た目は確かに綺麗と言えば綺麗なんだろうけど、中身はいまだに小学生のままだ。  今年は春の訪れが早く、通学路にある大きな桜の木はとっくに花が終わり、今は瑞々しい若葉を風に揺らしている。 「ドラゴンソード・アターック!」  その木漏れ日の下で、あきらの茶色がかった色の髪も、アニメの必殺技の動きに合わせてさらさらと揺れていた。時々、陽を反射してきらりと光る。  見られているのに気付いたのか、あきらがふっとこちらに顔を向けた。 「なー、友哉は進路どうすんの?」
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