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うちの高校は各学年5クラスあって、あきらは1年D組、俺はA組だ。
あきらは必死に各種お誘いを断りつつ、きゃぴしゃぴした群れを懸命にかいくぐって、俺のいるA組を目指してくる。
『ええと、トモダチ登録? ああ、ごめんね、スマホ持っていないから』
『え、これからカラオケ? ごめん、友哉と約束があるから』
『土曜と日曜? あー、ごめん、家の用事があるから』
毎度毎度同じように断られているのに、彼女たちのメンタルは強靭だ。毎日手を替え品を替え、難攻不落のあきらに果敢にも挑んでいく。
そして教室の入り口で俺を見つけると、あきらはダッシュで駆け寄ってきて、たいして大きくもない俺の影にぴたっと隠れようとする。なぜか二人で一緒にいる時は女子がからんで来ないので、あきらは俺を盾にするようにして、いつでも二人連れ立って帰るのだ。
わざわざ偽装交際宣言なんかしなくても、すでにそういう類いの噂は出始めているし、とばっちりで俺が女子から睨まれているし…………ああ、俺に春が来る日は遠い。
「友哉―、昨日の『ドラゴンハンター』撮った?」
「うん、全話録画してある」
「良かったー、後で見せて。うちのテレビ調子悪くて」
「宿題終わってからな」
「分かってるって」
あきらが常に俺と一緒にいるのは、別に女子よけのためという理由ではない。出会った時からずっと、可能な限りの時間を一緒に過ごしてきた。
だって、ひとりより、ふたりの方が、怖くないから。
でもきっと、これから大人になればなるほど、四六時中そばにいるのは難しくなっていく。このままではいられないし、このままではいけないと思う。
溜息を吐いて横を見ると、あきらはアニメの真似をして棒切れをぶんぶんと振り回していた。
「ドラゴンハンター今日もゆく! 目指すは遥か竜の城、速度は全速、いざ参る!」
見た目は確かに綺麗と言えば綺麗なんだろうけど、中身はいまだに小学生のままだ。
今年は春の訪れが早く、通学路にある大きな桜の木はとっくに花が終わり、今は瑞々しい若葉を風に揺らしている。
「ドラゴンソード・アターック!」
その木漏れ日の下で、あきらの茶色がかった色の髪も、アニメの必殺技の動きに合わせてさらさらと揺れていた。時々、陽を反射してきらりと光る。
見られているのに気付いたのか、あきらがふっとこちらに顔を向けた。
「なー、友哉は進路どうすんの?」
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