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ケーキ屋の紙箱から苺のショートケーキを出して皿に乗せる。
「わー、チョーうまそー」
「とりあえず食べながら課題のプリントやるか」
「うん!」
銀色のトレイの上に二人分のマグカップとケーキを乗せてあきらが持ち、いそいそとキッチンを出て階段のある方へ向かっていく。俺は二人分のカバンを持って、その後ろから続いてキッチンを出た。
俺の部屋は二階にあって、あきらは自分の参考書や辞典なんかの勉強道具をすべてそこに置いているのだ。
俺達は毎日宿題をして予習復習もちゃんとしていたから、小学校でも中学校でも成績はかなり良かった。それは俺達にとって一種の自衛手段だ。とりあえず成績が学年10位以内に入っていれば、多少奇異なところがあっても、学校にも親にもうるさいことは言われないから。
これからの高校生活でも、きっと同じことが言えると思う。
俺達はいつも一緒にいる。多分、気持ち悪いくらいに一緒にいる。二人とも部活に入らないし、二人で同じ日に学校を休むし、二人とも校外学習や修学旅行には行くことが出来ないし。
せめて成績ぐらいは上位を維持していなくては、教師や親を黙らせられない。
「友哉―」
トレイを持って慎重に階段を上がりながら、あきらは振り向かずに俺を呼ぶ。
「ん、なんだ?」
階段に足をかけて、俺は上を見上げる。
「今日、泊っていってもいいー?」
「いいけど……そろそろか」
あきらの首がこくんと動く。
「多分かなり近い……かなりやばい感じする。なんか、空気がピリピリしてきてるし、そろそろほんとにやば……」
ゆらりとあきらの肩の当たりの空気が揺れた。
ぞわっと鳥肌が立つ。
「あきら!」
手に持ったカバンを放り出して階段を駆け上がる。
「うあ!」
あきらが悲鳴を上げてのけぞり、その手からトレイが落ちるのが見える。
「ああ! 痛っ!」
ガシャンガシャンとマグカップが割れる音を聞きながら、肩を押さえて崩れそうなあきらに飛びつき、引っ張り上げる。
「痛っ」
あきらを支える俺の手に何かが噛みつく。強烈な痛みだ。右手の甲、脇腹、ふくらはぎ。痛みは次々と襲ってくる。
「痛い! 痛いぃ!」
あきらは首と顔を庇うようにして悲鳴を上げ続ける。あきらの体に見えない何かが噛みついている。
「あきら、つかまれ!」
「友哉ぁ!」
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