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すがってくるあきらを抱えるようにして、俺の部屋に駆け込む。
目に飛び込むのは色とりどりのお守り、お札、思いつく限りに集めた魔除けの数々。
部屋に入るとほんの少しだけ、痛みが引いた。
それでもまだ『あれ』は消えない。
目を凝らす。あきらの首のあたりの空気がゆらゆらしている。見えない何かを追い払うようにその周囲の空気をバシバシと叩く。手ごたえはない。でも他に対抗手段が無いのだ。さらにあきらの右足の先がゆらゆらしはじめて、俺はそこら辺を必死に叩く。
「あっちいけ! 消えちまえ!」
「痛いっ、痛いよ、友哉ぁ……!」
「俺も、痛い……! 大丈夫だ。俺も一緒だ……!」
俺もあきらも狂ったように喚きながら手足を振り回す。その様子を外から見れば、おかしくなったと思うだろう。
俺達だってこれが何なのか説明できない。
ただ痛い。ひどく痛い。
子供の頃から何度も、何度も襲われてきた。
周囲には子供二人がふざけているとしか思ってもらえなくて、見えない何かの存在は誰も信じてくれなくて……この怖さと痛みを知っているのは、この世で俺とあきらの二人きりだ。
ひとりじゃなくて良かった。あきらのそばにいられて良かった。襲われるたびに、つくづくそう思う。
二人でバタバタともがいている内に、次第に『あれ』の攻撃が少なくなってくる。『あれ』は音も姿も無く突然やってきて、必死に抵抗している内にいつの間にか消えている。毎回そうだ。
噛みつかれるような痛みが消えていき、ゆらゆらした何かも見えなくなる。
俺は、ふうーっと大きく息を吐いた。
「おわ……た……?」
床に転がったあきらが、涙目で俺を見上げる。
「ああ……終わったみたいだけど……『あれ』の気配は? まだ感じるか?」
「ううん、もう何も感じない」
「そうか……とりあえず乗り切ったな」
体の力が抜けて、あきらの隣に寝転がる。
俺が右手でこぶしを作って差し出すと、あきらも手を握ってコツンと拳をぶつけてきた。間髪入れずに指と指をぐっと握り合って、手を開いてパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン。
子供の頃からの二人だけの合図だ。コツン、グッ、パチン、友情の証。もとネタは子供向けのアニメか何かだったと思うけど、もうはっきり覚えていない。なんだか特別感があって、今でも気に入って二人の合図にしていた。
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