1-(1) 『あれ』

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「あーあ、なんだよ、やっぱこのお守りも効かなかったじゃん」  あきらが制服の胸ポケットからひとつの魔除けを取り出した。俺も同じものをポケットから出して、しげしげと眺める。うねるような筆書きで梵字とかいうものが書かれた和紙のお札だった。  この前ネットで手に入れて持ち歩いていたんだが、それを持つ俺の手の甲には『あれ』の噛み跡がくっきり残っていて、その効果の無さを物語っている。  でも。 「でもな、あきら。効かなかったんじゃなくて、これがあったからこの程度で済んだのかもしれないだろ」 「またそうやってこの部屋のがらくたが増えていくー」 「そう言うなって。この中のどれか、もしくは全部が少しずつ効いているような感じがしないか。この部屋の中だと比較的『あれ』が軽く済む気がするしな」  俺は自分の部屋をぐるりと見回す。  壁にはお札やお守りがべたべたと貼られ、棚には世界各国の魔除けの置物が並び、天井からもあらゆる厄除けグッズがぶら下がっている。  この街の神社や寺、教会は全部あきらと二人で行ってみた。遠くへ旅行に行くという友人には魔除け厄除けをお土産にしてくれと頼み込む。通販で買えるお守りアイテムにもいくつも手を出している。  そうやって手に入れてきた魔除けが効いているのかいないのかは正直よく分からない。でも、もしかしてと思ってしまう。もしかして少しくらいは効いているかもなんて、淡い期待を抱いてしまう。  まぁ、だからどれもこれも捨てられないわけで……俺の部屋は相当カオスな状態だ。 「こんなもん、全部気休めだろー……あいてて」  あきらがうめいて首を押さえ、「うわ、血が出てるじゃん」と自分の手を見た。 「あきら、火傷は? コーヒーひっくり返しただろ」 「あ、それは大丈夫だけど、びっくりしてトレイ放り投げたから友哉に当たんなかった?」 「ああ、大丈夫だ」  制服のズボンにコーヒーの染みが出来ていたが、それだけだ。 今回も、大怪我することなく乗り切れたことに安堵する。 「あーあー、俺のケーキがー……」  あきらは虚空に手を伸ばして、大げさにがっかりした声を出した。  得体の知れないものに襲われて怪我までしているのに、おやつのケーキを一番気にしている。あきらのこういう性格に、俺はだいぶ救われていると思う。
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