31人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
天井から下がっているドリームキャッチャーやどこかの国の青い目玉のお守りが、風も無いのにゆらゆら揺れていた。それはよくあることなので、いちいち過剰反応せず、今まさに魔除けが働いているんだと思うようにしている。
「消毒しなくちゃな」
「うーん……」
「母さんが帰ってくる前に、あの惨状を片付けないとな」
「うーん……」
あきらはだるそうな声を出す。
「あきら」
「だって、ショートケーキー……」
「よし!」
自分の頬を叩いて、俺は起き上がった。
部屋に常備してある大きな救急箱を引き寄せる。
「ほらあきら、傷見せろ」
「うー……」
「ショートケーキは無理だけど、ホットケーキくらいなら焼いてやるから」
「まじで?」
ひょこっとあきらが起き上がる。
「メープルシロップある?」
「どうだったかな? でも蜂蜜はあるからたっぷりかけてやる」
「おお、やったー」
あきらはそれだけでもう満面の笑みだ。
中身が小学生だからこういう面では扱いやすいな、と俺はこっそり笑ってしまう。
「まずは怪我の確認からだ。首と、あとはどこやられた?」
「えっと、肩とー足とー」
言いながらあきらがズボンの裾をまくる。そこにも血のにじんだ噛み跡が現れる。
「けっこうやられたな」
「うん。なんか、だんだんひどくなってるような気がする……。この歯形って人間のとは違うよね。牙が食い込んでいる感じだし、やっぱ犬? 犬の呪い? それとも犬に似た何かの妖怪?」
俺は首を振った。
「分からない……」
犬に恨まれる覚えはない。動物を飼っていたことも無いし、いじめた記憶もない。
そもそもこれが呪いだとして、そのきっかけが何だったのか分からなかった。
開かずの間に入ったとか、怪しげなお札を破ったとか、墓とか遺物を壊したとか、そういういかにも分かりやすい出来事には心当たりがない。
最初のコメントを投稿しよう!