1-(1) 『あれ』

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 天井から下がっているドリームキャッチャーやどこかの国の青い目玉のお守りが、風も無いのにゆらゆら揺れていた。それはよくあることなので、いちいち過剰反応せず、今まさに魔除けが働いているんだと思うようにしている。 「消毒しなくちゃな」 「うーん……」 「母さんが帰ってくる前に、あの惨状を片付けないとな」 「うーん……」  あきらはだるそうな声を出す。 「あきら」 「だって、ショートケーキー……」 「よし!」  自分の頬を叩いて、俺は起き上がった。  部屋に常備してある大きな救急箱を引き寄せる。 「ほらあきら、傷見せろ」 「うー……」 「ショートケーキは無理だけど、ホットケーキくらいなら焼いてやるから」 「まじで?」  ひょこっとあきらが起き上がる。 「メープルシロップある?」 「どうだったかな? でも蜂蜜はあるからたっぷりかけてやる」 「おお、やったー」  あきらはそれだけでもう満面の笑みだ。  中身が小学生だからこういう面では扱いやすいな、と俺はこっそり笑ってしまう。 「まずは怪我の確認からだ。首と、あとはどこやられた?」 「えっと、肩とー足とー」  言いながらあきらがズボンの裾をまくる。そこにも血のにじんだ噛み跡が現れる。 「けっこうやられたな」 「うん。なんか、だんだんひどくなってるような気がする……。この歯形って人間のとは違うよね。牙が食い込んでいる感じだし、やっぱ犬? 犬の呪い? それとも犬に似た何かの妖怪?」  俺は首を振った。 「分からない……」  犬に恨まれる覚えはない。動物を飼っていたことも無いし、いじめた記憶もない。  そもそもこれが呪いだとして、そのきっかけが何だったのか分からなかった。  開かずの間に入ったとか、怪しげなお札を破ったとか、墓とか遺物を壊したとか、そういういかにも分かりやすい出来事には心当たりがない。
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