(1) 友哉の目に見えるもの

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 俺は画面をスワイプしながらひとりひとりの顔を見ていく。 「うーん、三人ともふつーにかわいいよー」 「容姿の美醜じゃなくて、特徴」 「これといった特徴はないかなぁ。髪の長さもみんな肩ぐらいだし、ああ、遠野芽衣って子は左目の下にほくろがあるよ」 「トオノメイさん。この距離だとほくろまでは分からないけど、近づけば見えるかな」  俺の目にはもちろんアパートの外観がしっかり映っているから、建物の中で蠢くものは頑張って集中しないとよく見えない。  女の生首を頬杖をつくように支えてトコトコと器用に歩いている二本の腕とか、縮尺を間違えたみたいにやたら細長い黒尽くめの男とか、関節という間接をおかしな方向に動かしてくねくねと踊っている白い影とか。  見るからに人間ではないやつらは除外するとして、友哉の言っている6人がどの6人を指しているのか俺には判別できなかった。 「近田さん親子の失踪の後から、このアパートには出るっていう噂が立つようになっちゃって、一部の学生たちの間でお化けアパートって呼ばれるようになったみたい。去年の8月、近田花梨さんの元クラスメイト5人がよせばいいのにここで肝試しをしちゃって、で、案の定、その5人の中の2人と連絡が取れなくなった。それが遠野芽衣さんと中沢瑠衣さん、二人とも17歳」 「最後のひとりはナカザワルイさんか」 「うん」 「二人の名前の漢字も教えてくれ」 「トオノは遠いに野原で……」  友哉がわざわざ幽霊の名前を覚えるのは、名前で呼んだ方が反応してもらえるからだ。「おじさん」とか「お姉さん」とか「おい」とか「お前」とか呼ぶよりも、個人名の方が相手に届きやすいのは生きている者と同じだ。  だが、友哉の目には見えているのに、いくら呼びかけても意思疎通がとれない幽霊も、ごくわずかにいる。今までの経験から、そういう霊は死んでからの時間が相当長く経っているものだと分かった。よほどの怨念でもない限りは、年月が経つ内に少しずつ動かなくなって少しずつ思考しなくなっていくものらしい。  一度、落ち武者のようなものを見たことがあるけれど、動かないし喋らないし、染みのような影になってただ佇んでいるだけだった。 「遠野芽衣さん、中沢瑠衣さんか……」 「あ、大家さん来たみたいだよ」  一台の軽自動車が駐車場に入って来て、いきなりガクンと急停車した。駐車スペースの線からはみ出して思いきり斜めになっているのに、切り返しもしないし、エンジンがかかったままで車から出ても来ない。 「あれ、何やってんだろ?」 「違ったのか?」 「分かんない。二台分のスペースに斜めに停めたまま動かないんだけど」
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