1-(1) 『あれ』

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 俺とあきらが出会ったのは小学校に入る前で、覚えている限りでは出会った頃からもうこんな状態だった気がする。  俺達は見えないお化けの話を必死で大人に訴えたけど、ぜんぜん相手にしてもらえなかった。体に残る傷を見せても、ケンカでもしたんだろうと一蹴されてしまって、誰にも分かってもらえなかった。 「大人になったら、『あれ』は自然に消えると思っていたんだけどな……」  足の傷口にガーゼを当てながら呟くと、あきらも小さい声でポソリと返してきた。 「俺も」  分別がついて現実を知れば消えてしまう、そういう類いの子供にしか見えない怪異なら良かったのに。 「もう高校生になったんだから、俺達十分大人なのになぁ」 「うん? それはどうかな? 俺はともかく、あきらはぜんぜんまだまだだろ」 「はー? あきら()ってなんだよ。友哉とは誕生日もたった三日しか違わないし、背は俺の方が2㎝もでかいんだぞ!」 「そういうところで張り合うのが子供っぽいだろ」 「自分だけ大人だって言い張る友哉も子供っぽいよ!」 「あはは、そうか」 「そうだよ」  顔を見合わせ、苦笑しあう。  俺達がほかの同級生と比べて、かなり人生経験が少ないことは自覚している。体だけ大きくなっても、俺とあきらの関係は小学生の頃から何も変わっていない。 「手当が終わったら、まずは階段の掃除、それからホットケーキ作って、課題のプリントをするぞ」 「ううー、ホットケーキ以外はめんどくさい」 「めんどくさくてもやる!」 「はーい」 「はいは伸ばさない」 「はいはい」 「はいは一回」 「へぇへぇ」 「へぇって何だよ」 「えー、友哉だってたまにへぇへぇって言うくせにー」  見えない『あれ』への恐怖と、押しつぶされそうな不安を抱えて、それでもまだ二人だから笑って生きていられる。  この異常な日常を共に生きる誰かがいることを、それがこのノーテンキなあきらだっていうことを、俺は心底感謝していた。
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