1-(2) 兄弟みたいに

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1-(2) 兄弟みたいに

 『あれ』は一回襲って来ると、次に来るまで少し間があく。長ければ一ヶ月、短くても5日か6日くらいはインターバルがある。 「んじゃ明日な、友哉」 「泊まっていってもいいんだぞ」 「いや、今日はもう『あれ』も来ないだろうし」 「そうだけど」 「しょっちゅう友哉んちに泊まるから、早苗さんが、その……心配するんだ」 「そっか」  帰るというあきらを玄関で見送る。  その首の白い包帯が痛々しい。 「心配してくれるってことは、早苗さんもあきらが大事なんだな」 「え……」  何気なく言った俺の言葉に、あきらはなぜか困ったような顔をした。 「あきら? どうした、早苗さんとうまくいっていないのか」 「ううん、そんなんじゃないよ。ちょっと、なんというか、過保護なくらいに大事にしてくれてるから」 「そっか。ま、どこの家でも保護者ってのはうるさいもんなのかもなぁ」 「そうだよね……」 「傷が腫れたり熱が出たりしたらすぐ連絡しろよ」 「分かった。つっても、うち電話無いけど」 「そっか。俺のスマホ貸そうか?」 「いいって、大丈夫。俺、傷の治り早いの知ってるだろ」 「早いったって限度があるだろうが」 「心配しなくても、これくらいの怪我ならすぐ治るって」  楽天的なあきらがいつもの調子で笑った後ろで、カチャリとドアが開いた。 「あら、あきら君」  息子も目の前にいるというのに、母さんはあきらに笑いかけた。 「おばちゃん、おかえりー」 「おかえり、母さん」 「ただいまぁ、なんかいい匂いするわね」  あきらはほぼ毎日うちにいるので、今さら『いらっしゃい』『お邪魔しています』みたいな挨拶はしない。 「ごめん、おばちゃん。俺、ケーキを落として潰しちゃって」 「それで代わりにホットケーキを焼いたんだ」 「そうなの? どうりで美味しそうな匂いがすると思った」 「美味しかったけど、ショートケーキも食べたかった……」 「じゃぁ今度また買っておくわね」 「わーい、やったー。おばちゃん大好き」 「まぁ、嬉しいこと言っちゃって」 人懐っこいあきらをうちの母さんはかなり気に入っている。猫かわいがりという言葉がそのまま当てはまるような溺愛ぶりだ。 「じゃな、あきら」 「気を付けてね」 「んじゃ友哉、明日な。ばいばい、おばちゃん」 母さんに両手で頭を撫でられ、くしゃくしゃの髪のままであきらは笑って手を振った。そして門に立てかけていたあの棒切れを手に取ると、ぶんぶんと振り回しながら帰って行く。 俺と母さんは玄関先に立って、しばらくその後ろ姿を見送っていた。
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